・ 精巣の腫瘍は,15歳から44歳の男性に認められる悪性の腫瘍で,発生率に地域差が大きいため,環境要因も主要な原因であると考えられている.
精巣腫瘍の発生頻度が最も高いのは,デンマーク,スイス,ニュージーランドで,1年間に10万人のうち8人に発生している.
また,精巣腫瘍に関する調査が行われた国全てで,その発生率が急速に増加しているというのが現状である.
例えば,アメリカ合衆国における白人の現役軍人の精巣腫瘍の発生は,1970年代と比較すると1990年代では61%も増加している.
しかし,地域差も大きく,ナイジェリアでは,精巣腫瘍の発生率は10万人のうち0.1人である.
また,アメリカ合衆国においても,白人に比べ黒人の発生率の増加は非常に低い.
この疾患に関しては,遺伝的要因が主要な原因であると考えられているが,環境の要因も原因であると考えられている理由としては,比較的遺伝的に均質であると考えられるスカンジナビアの国々で発生率に大きな差があることである.
また,英国では,精巣腫瘍による死亡率が1920年代から増加していることから,DDT やいわゆる内分泌攪乱化学物質などが原因ではないと考えられる.この精巣腫瘍は比較的若年の男性に起こる疾患であることから,胎児期を含む比較的若い時期から,注意することが精巣腫瘍の予防になると思われる.精巣腫瘍の原因として,母親の出産回数と年齢,出生時の体重,思春期年齢,殺虫剤アトラジンの使用,N,N-ジメチル-m-トルアミド,職業的な炭化水素の曝露,および PCB などが考えられている.
また,停留睾丸の場合3~14倍も精巣腫瘍の発生率が高くなる.
男性の先天性異常である尿道下裂と停留睾丸は,程度の軽い女性化の指標であり,内分泌攪乱化学物質を含む環境化学物質の関与が疑われている.これらの異常の発生率も,過去30年の間に増加している.
尿道下裂は,陰茎の下部か会陰部に尿道が開口する奇形で,放置しておけば,尿道狭窄,感染症,射精障害などの原因となる.
5大陸29か国のデータを解析したとろ,尿道下裂は国の工業化とは関連がないが,発生率は増加傾向にあった.
停留睾丸は,陰嚢内に精巣が下降しない場合である.
世界的に見た場合,停留睾丸の発生率は増加しているわけではないが,アメリカ合衆国の2つの調査では異常に増加しているという報告がある.
フロリダパンサーでも停留睾丸の発生率が増加しており,この脱男性化,女性化の徴候が内分泌攪乱物質の曝露と関係があると考えられている.