・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzensei.html
臭素化ジフェニルオキシド (エーテル) 系難燃剤3物質の毒性
臭素化難燃剤 (BFR) は高度に難燃性の樹脂などに使われており, 使用量は全世界での難燃剤の約25%を占める.
BFR は構造により芳香族ジフェニルオキシド, 環状脂肪族, フェノール誘導体, 脂肪族, フタル酸無水物誘導体, その他に分類される.
臭素化ジフェニルオキシド (PBDPO, PBDF) 系難燃剤は3種類製造されており, 代表的な BFR の一つである.
それらの組成, 製造量, 使用料, 毒性はそれぞれ異なるが, 構造上は同一タイプである.
1999年の全世界での PBDPO 使用量は10臭素化体 (DBDPO), 8臭素化体 (OBDPO) および5臭素化体 (PeBDPO) がそれぞれ 81.7%, 5.7%および 12.7%であった.
DBDPO の純度は約97%であるが, OBDPO は7~9臭素化体の, PeBDPO は4~6臭素化体の混合物である.
DBDPO は電気製品や室内装飾用織物に, OBDPO はアクリロニトリル-ブタジェン-スチレン樹脂に, PeBDPO はクッションのウレタンにそれぞれ難燃剤として使われている.
DBDPO, OBDPO, PeBDPO は高分子化合物で, 水への溶解性および気化圧はともにジフェニル分子の臭素化の程度に依存しており, それぞれ極めて低いが, 環境中への移行の仕方やその中での動態はそれぞれ異なる.
環境中で検出される PeBDPO の50~70%は 2,2',4,4'-TeBDPO であり, また, DBDPO は放出源近くの底質に局在するのみで生物体内には検出されない. DBDPO, OBDPO および PeBDPO の主成分である 2,2',4,4',5-PeBDPO は魚類体内への移行はみられないが, 2,2',4,4'-TeBDPO は体内に蓄積する. しかし, 水生生物への急性および慢性的影響はほとんど見られない.
DBDPO, OBDPO, PeBDPO の哺乳類への反復投与毒性試験の結果は異なっている. DBDPO では急性毒性, 眼・皮膚刺激性, 皮膚感作性, 遺伝毒性, 発生・生殖毒性および発癌性はみられず, ラットにおける無毒性量 (NOAEL) は 1,000 mg/kg 以上である.
PeBDPO では無影響量 (NOEL) は 1 mg/kg であり, また, OBDPO ではラットで発生毒性を示す.
これらのような化合物による毒性の違いは各同族体の吸収, 代謝および排泄の差によるものと考えられている.
DBDPO の腸管吸収率は低く (0.3~2%), また, 消失半減期も比較的短く (24時間以下), 糞中に速やかに排泄される (72時間で99%以上). 一方, 2,2',4,4'-TeBDPO のラットでの経口投与による吸収率は約95%で, 5日間での排泄率は14%以下である.
また, 2,2',4,4',5-PeBDPO の排泄も遅く, 経口投与後72時間での排泄率は約45%である. 哺乳類でのこのような体内動態の違いが水生生物体内への蓄積性など環境動態と関連している.
DBDPO と OBDPO は水生生態系への蓄積性も毒性もないが, PeBDPO は魚への蓄積性が認められている. しかし毒性はない.
また, PBDPO は齧歯類の血中 T4 レベルを低下させ, PBDPO の水酸化体はチロキシン結合蛋白である transthyretin と T4 との結合を阻害するなどして, 甲状腺機能発現に影響を及ぼすことから, 内分泌撹乱作用が疑われているが, ヒトでは動物での代謝や T4 結合蛋白種の違いなどから甲状腺への影響はないと考えられている.
製造されている DBDPO, OBDPO, PeBDPO 3種の毒性や生物蓄積性などはそれぞれの化合物により異なることから, これらの化学物質を PBDPO または PBDE として一括して議論することをやめて, それぞれ個別に評価する必要があろう.