・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzensei.htm
・「趣味に用いる有機溶剤が全身硬化症を引き起こす」
有機溶剤を使用する労働者に全身性硬化症(Systemic sclerosis; SSc) が高頻度で発症し, 中でも抗硬化症自己抗体(anti-Scl70)が陽性の者では有機溶剤の使用と SSc 発症とが強く相関することが知られている.
一方, 趣味を通じて同様な有機溶剤に曝露される者(solvent oriented hobbies; SOH) も多い. たとえば, エンジンの修理(改造等)を趣味とする者はトリクロロエチレン, 塩化メチレン, ベンゼン, キシレン等に, 家具作りを趣味とする者は塗装用シンナー, ノルマルヘキサン, シクロヘキサン等に曝露される. 本論文ではこのような趣味と SSc の罹患率の関係について報告している. 調査は大学病院の患者を対象に行い, 趣味及び職務履歴を anti-Scl70 測定用の血液サンプルと共に調べて累積曝露のスコアを計算し, 性別, 年齢, 業務上の曝露等の因子で補正した後ロジスティック回帰を行って SOH と anti-Scl70 の相関性について検討した.
趣味の分類は 1)車/エンジンの修理改造, 2)家屋の塗装, 3)油絵, 4)プラモデル製作, 5)日曜大工, 6)ガーデニング(殺虫剤の散布等), 7)家具作り(再塗装を含む), 8)美術・手芸, 9)写真現像, 10)陶芸, 11)溶接/ハンダづけ及び 12)その他, とした.
これらの分類分けに基づいて SOH(178人)とそれ以外の人(200人)の間で SSc の罹患率を調べたところ, 両者の間に明らかな相関は認められなかった. しかしながら趣味の継続年数, 頻度及び使用溶剤の種類等から計算した累積曝露のスコアが高く, anti-Scl70 が陽性のグループ(29人)では anti-Scl70 が陰性のグループ(149人)と比較して SSc の罹患率が3倍, 対照(200人)と比較して2倍高かった.
これらの調査結果から, 個体の遺伝的素因によっては, 日常用いる物に多く含まれる有機溶剤への曝露が, SSc の様な自己免疫疾患の発症につながることが示唆された. 発現機序の解明にはさらに広範な研究が必要であろう.