・出典:社団法人東洋医学会関東甲信越支部栃木県部会
http://dome.ruru.ne.jp/tomura/touyouigakutochigi01.htm
・[教育講演2]
自律神経から見た漢方投薬のコツ
水嶋 丈雄 先生
(水嶋クリニック院長、佐久総合病院 東洋内科嘱託、長野県)
漢方治療のなかで、いつも困るのは古典の理解と証の把握です。
これは大変重要なことですが、臨床家としてはもう少し簡単にできないか悩むところです。
そこで新潟大学の安保先生が提唱された白血球の自律神経支配の理論が参考になります。
つまり白血球の顆粒球は交感神経の支配で増加し、リンパ球は副交感神経支配で増加するという理論です。
これは漢方薬が生体内で自律神経・内分泌・免疫にどのように働くかを知る一つの参考になります。例えば感冒は感染当初は鼻水・悪寒など副交感優位の状態ですから当然交感優位の漢方が要求されます。
しかし4~5日にて喉の痛みや発熱が出現すると交感優位になっていますから、漢方は副交感優位にしなければいけません。
またこじれた風邪はどちらに優位になっているのか考えればどの漢方を用いるか必然的にわかってきます。
そこで、種々の漢方薬を投与前と投与後に顆粒球とリンパ球の比率を測定してみました。
そこでわかったことは、漢方を用いる原則である四神の考え方は自然免疫系の自神経とB細胞に働き、気血水や五臓に働く漢方は獲得免疫のTh1/Th2系に作用するという事です。
たとえば、麻黄剤はエフェドリンの影響で交感神経に強く働きますが、桂枝剤は副交感にも働き、いわゆる軽く発汗させながら循環血漿量を増加させるということです。
これが皮膚表面の実と虚という意味合いなのです。
また附子剤はアコニンサンにて交感神経に優位に働くはずなのですがあまりはっきりとした変化はでませんでした。
しかし白血球の平均値の5000でわけてみると5000以下の群で交感優位の傾向がはっき
りします。これは白血球の総数が新陳代謝と比例するからです。
つまり白血球が5000以下の群は虚証で冷えがつよくこの群では附子は交感神経に強く働くのですが、あまり冷えが強くない群では副交感とのバランスがととのえられます。
乾姜群でも同様のことがいえます。
石膏群では炎症サイトカインのIL-6の総数で交感優位と副交感優位が分類されます。
また柴胡剤では臣薬の種類によって作用が変化します。
臣薬が黄岑GではTh1を増加させますが芍薬ではTh2を減少させます。
補剤のグループでは優位にTh1を増加させます。
当帰剤はTh2を抑制しますが、桂茯剤ではTh1/Th2の調整にはたらきます。地黄丸剤や利水剤ではTh1を増加させます。
これらのことから、漢方は免疫のどの部分に働くかによって使用方法を変化させなければ行けないのです。
たとえばアレルギー鼻炎では初期の段階ではマスト細胞からヒスタミンが遊離されまた5~6時間で好酸球が分泌されます。
この段階ではB細胞に作用する小青竜湯を始めとする麻黄剤を用います。
また冷えが強いときには附子を加え、熱が強いときには石膏をくわえます。
しかし病期が遷延するとTh2細胞がその主体をなすため柴胡剤に変化させる必要がでてくるのです。喘息でも同様です。
発作期では麻黄剤を中心に附子や石膏をくわえますが、遷延した寛緩期には麻黄剤や地黄丸剤が必要なのです。
アトピーでは初期には麻黄剤や石膏剤でいいのですが遷延期には柴胡剤や当帰剤が必要になります。
もちろんこれはTh2の優位のタイプなのですが、Th1優位の自己免疫型にはなかなか決め手がないのが現状です。
これが当日にさまざまな取り組みを紹介したいと思います。
ただし、アトピーでもリンパ球の優位の群にはステロイド治療はかなり有効なのですが、リンパ球は劣位 つまり交感神経優位になればステロイドはかえって炎症を惹起します。
これはリウマチにも同じ事で、交感神経優位の群にはNSAIDsは血流を阻害し、かえって関節変形を増強させます。
このような場合にはまず漢方薬を思い出してください。
runより:化学物質過敏症でも使えそうな内容なのでカテゴリーに加えました。