エピジェネティクス毒性学入門-下2 | 化学物質過敏症 runのブログ

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6 経世代影響

 上に述べたように、化学物質の始原生殖細胞への経胎盤投与によって、世代を超えて生殖細胞に「環境エピゲノム異常」が伝達されたというSkinnerらの論文は、衝撃的なものでした。

私もその中の一人でした。
 私はこれまで、強力なエチル化剤であるN-Ethyl-N-nitrosourea (ENU) によって、マウスの始原生殖細胞(PGC)に高頻度に突然変異が誘発されることを研究してきました。

そして、マウス特定座位試験 (SLT) やトランスジェニックマウス(注)であるMutaMouseを用いて、PGCにおける突然変異の誘発を世界で最初に報告しました (7)。

それまでは、突然変異として固定されなかった化学物質や放射線によるDNA塩基の修飾は、次世代の生殖細胞形成期に完全に消去されるものと考えられていました。

私はENUのPGCにおける突然変異の誘発は確認しましたが、その当時は「環境エピゲノム異常」についてまでは考えてはいませんでした。
 私はまた、別のマウス系統を用いてENUによる雄PGC細胞における、遺伝子内組み換えに関する実験を行い、それらが突然変異と比較して格段に高い頻度で誘発されることを確認しました。

私はENUについての総説を Mutation Research誌に書きましたが、ENUはDNAに塩基置換を効率よく誘発することのみが知られていました。

しかし、ENUがクロマチンの再構成に影響を及ぼし、遺伝子内組み換えを誘発するという、いわゆる「環境エピゲノム異常」を誘発することまでは考えられませんでした。


繰り返しになりますが、化学物質のPGCへの経胎盤投与によって、世代を超えて生殖細胞に「環境エピゲノム異常」が伝達されたというSkinnerらの論文は、この分野の研究者には衝撃的なものでした。
 それまで、経胎盤投与によって次世代の体細胞が何らかの影響を受けることは、生殖・発生毒性学では自明のことでした。

上に述べた私のPGCの研究は、"Mouse Spot Test"という、胎児期処理による色素原細胞(melanoblasts) の体細胞突然変異の研究から始まりました。

その実験で、生まれた雄マウスの生殖能がENUの用量に依存して低下することを偶然に発見しました。

そして、Russell ら(オークリッジ国立研究所) による ENUによる精祖細胞〔オスの出生後出現し、精子の根幹となる細胞〕における高頻度の突然変異誘発の論文(PNAS: 1979年)を参考にして、PGC期のSLTを実施したのでした。