・哺乳類の鼻に“危険センサー”を発見
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人間を含む哺乳類の鼻の先には、危険を察知するための警報探知器が組み込まれているらしい。マウスで発見されたこの小さなセンサーは、窮地に立たされた仲間の動物が放つ化学的な警戒信号に反応するという。
植物や動物の多くは捕食動物が接近した場合などに、「警報フェロモン」と呼ばれる空気に運ばれる分子を放出して同じ種の仲間に危険を知らせている。しかし、哺乳類が警報フェロモンを感知する仕組みについては、これまで解明されていなかった。
今回、スイスのローザンヌ大学のマリー・クリスティン・ブロワイエ氏のチームでは、「グルーエネベルク神経節(Grueneberg ganglion)」と呼ばれる鼻の中の微小な細胞の集まりにその答えを見出した。
グルーエネベルク神経節は1973年に最初に確認され、齧歯(げっし)類、ネコ、類人猿、人間などさまざまな哺乳類で見つかっている。
今回の研究でマウスに危険を察知する鼻があることが分かったが、研究チームによると、この神経節を持つ哺乳類であれば、同様の鼻を持つ可能性があるという。
研究チームでは、生理学的手法を用いてマウスのグルーエネベルク神経節を調べた。「この神経節は生まれたときから完全に機能している唯一の嗅覚サブシステムなので、赤ちゃんのマウスが母親の乳首を見つけるために重要な部分だと考えていた」とブロワイエ氏は話す。
しかし、乳首を見つける働きなどさまざまな機能をテストした結果、この神経節は危険の伝達に関与していることが分かった。
さらに、グルーエネベルク神経節のあるマウスとないマウスを用意し、警報フェロモンを放出してその反応を比較したところ、対照的な結果になった。
「正常なマウスはすぐに怖がってボックスの隅に逃げてじっとしていたが、この神経節を欠損させたマウスは危険信号に気づかない様子で、行動は変わらなかった」。
どちらのグループもケージの中に隠されたクッキーを嗅ぎ分けることができたため、グルーエネベルク神経節を欠損させても、マウスの嗅覚は危険の探知以外には影響を受けなかったと考えられる。
また、「この化学センサーが鼻の先という場所にあるのは、フェロモンを素早く感知するには理想的だ」とブロワイエ氏は述べている。
ニューヨークのコロンビア大学の生物学者スチュアート・フィアスタイン教授は、今回の発見は2つの重要な科学的進歩を体現していると話す。
「まず、嗅覚システムは単一のシステムではなく、実際にはいくつかのサブシステムから成り立っているという認識が最近高まっているのだが、それをさらに広げるものであること。2番目は、神経系の中で体細胞と分子が協調する仕組みをさらに解明するものであること」。
今回発見されたマウスの警報探知システムは、この仕組みの解明において新しい強力なモデルになり得るという。
警報フェロモンの化学的組成や、生成が行われている体内の場所はまだ解明されていないが、フェロモン・センサーが発見されたことで、最終的には関与している分子の特定につながるだろうとブロワイエ氏は話す。
警報フェロモンを人工的に作り出すことができれば、疫病の撃退や群れの分散といったさまざまな用途への活用も期待できるという。
runより:これは面白い話。化学物質過敏症への応用も期待したい。