人工鼻で爆発物やがんの検出が可能に?
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世界初となる“においのバイオセンシング装置”、すなわち“人工鼻”の開発につながる研究成果が発表された。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームはこのたび、人間のにおいの検知に関与する受容体の大量生産に成功した。
この発見は、警察の捜査や軍事、医学の分野での応用が想定されており、麻薬探知犬や爆発物捜査犬などに代わる技術として今後発展していく可能性がある。
研究の主席執筆者MIT生医工学センターの副センター長を務める張曙光(Zhang Shuguang)氏は、「肺がん、膀胱がん、皮膚がんといった一部のがんは初期段階で特有のにおいを発生するが、このにおいを識別することも可能になるかもしれない」と語っている。
張氏が率いる“リアル・ノーズ(RealNose)”というプロジェクトは、アメリカ国防総省の研究機関である国防高等研究計画局(DARPA)の積極的な資金提供の下に共同研究として進められている。
嗅覚受容体は、においの検知に関わるタンパク質で、この物質の分離は実験室段階でも困難であることが知られていた。
このタンパク質は水に触れると構造が失われるため、実用に結びつくだけの量を生成することは難しいとされていたのだ。
研究チームは麦芽や洗浄剤などを用いて、この受容体タンパク質の分離と精製に取り組み、数年にわたる研究の結果、研究利用や産業利用に十分な量を培養することに成功した。
バージニア州にあるフレクシトラル嗅覚研究所の生物物理学者で、2006年に「香りの愉しみ、匂いの秘密(The Secret of Scent: Adventures in Perfume and the Science of Smell)」を執筆したルカ・トゥリン氏は、この研究結果について次のように評価している。
「画期的な成果が得られたといえるだろう。張氏のグループは大変な技術的困難を乗り越えて、ミリグラム単位の純粋な嗅覚受容体を生成するに至った。これを機に、新たなセンサー機器などあらゆる応用技術への道が開かれることになる」。
この研究は「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌の先週号に掲載されている。
嗅覚受容体の働きや、脳内でのにおいの解釈システムについては、いまもはっきりとした解明がなされていない。
「嗅覚は最も古く原始的な感覚であると想定されながらも、その機能は謎に包まれたままで、においを感じる仕組みについては誰も正確に分かっていない」とMITの張氏も説明する。
この研究で博士号を取得したブライアン・クック氏は次のように述べている。「においを分子レベルで把握できたことが一番の収穫だ。
この受容体が特定のにおい分子をどのように認識して作用しているかは不明だが、何十年も論争が続いてきた嗅覚の問題も、これで次の段階に進むことになるだろう。とはいっても今回の成果は最初の一歩にすぎず、人工鼻の完成までには多数の研究を重ねていく必要がある」。
runより:何気ない記事ですが、化学物質過敏症の謎解明に役立つかもしれません。