・第六章 神経の条件付け
臭いに対する反応での学習された症状:多種類化学物質過敏症についての
学習の関与本論文では多種類化学物質過敏症の症状の有力な説明として、学習の関与を論議する。
臨床的な証拠は少なく、またあっても科学的ではあまりない。
実験的なモデルが確実な結果を提示している。炭酸ガス濃度の高い空気呼吸を条件付けでない呼吸ガスとし、それに無害な有臭物質を含むガスを条件付けのガスとして、数呼吸すると、有臭ガスでのみ自覚症状が誘発され、呼吸の状態が変化する。
また、精神的な心象が自覚症状の引き金を引く条件付け刺激となり得る。
学習効果は反応の偏見(bias)やs 条件付けられた興奮により説明出来るものではない。
臭いと炭酸ガスの吸入との関係を知っているという認識と重複しない基礎的な連想的な過程が存在しているように思われる。
学習して身についた症状は新しい臭いに拡がり、さらにパブロフの消失過程で消滅しえるかもしれない。
臨床的な所見と一致して、神経過敏な人や、神経病的な人は臭いに反応する際に、より敏感になりやすい。
学習の関与を考えると、認識-行動学的治療の技術が臨床例に有用な結果をもたらすと思われる。
本項ではさらに学習の機構の重要な役割に関する種々な批判や未解決な疑問をあわせて議論した。
嗅覚と文脈的刺激に対する情動反応のパブロフ様条件付け
-化学物質不耐性の発生と発現のための有力なモデル
ヒトにおける化学物質不耐性(CI)は病因論的にはほとんど理解されていない現象の一つである。
これは、おそらく、患者間では、あるいは同じ患者でも様々な因子により影響を受けているためと思われる。幾つかのケースでは、CI の発生はパブロフの条件付けに類似の過程に部分的にではあるが依存しているらしい。
すなわち、ある物質に対する強い症状の発現は嗅覚と文脈的刺激に対する古典的条件付けの反映であると指摘されている。
この論文では、動物実験で示された、嗅覚と文脈的条件付けとの有力な因果関係を述べ、さらにヒトにおけるCI の発生と発現について言及する。
また、最近の研究の進展によりこれらの条件付けに関わる学習反応を司る脳の部位について詳細な記載がある。
そこで、特に、嗅覚と文脈的刺激に対する恐怖条件付けには扁桃体と嗅脳溝周囲皮質が関わっているという最近の研究をレビューする。