・出典;化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
自閉症と水銀の関係
佐藤章夫 (栄養医学研究所所長)
・6.ハイリスクグループに関する知見
ハイリスクグループについては、厚生労働省から特別に検討が要請されていることから、「ハイリスクグループの議論を要請された背景」、「現行の我が国の注意事項での対象者の考え方」、「諸外国等における摂食注意の対象者とその考え方」、「胎児および小児に関する毒性に関する所見」は、別に整理した。なお、胎児以外のハイリスクグループに関する諸外国の評価における記載は、以下のとおりである。
(1)乳児に関する知見、母乳へのメチル水銀移行に関する知見
①平成15年6月薬事・食品衛生審議会における議論
メチル水銀は母乳を介して子供に大部分が移行しないことや、乳児の感受性が高いというはっきりとした科学的根拠はない等の参考人からの意見により、授乳中の母親は食事指導の対象とされなかった。
②総説等における記述
a)米国NRC (NRC(7))
実験動物における知見として、新生仔ラットとサルでは胆汁中にメチル水銀を排泄する機能が限られていることが知られている。
このため、新生仔は、成熟動物に比べて、メチル水銀の排泄に時間を要する。
加えて、授乳期における児の腸内の細菌叢(flora)も、脱メチル化機能が低いかもしれない。
これらの実験動物での現象がヒトに当てはまると仮定した場合には、ヒト新生児はメチル水銀に特に鋭敏であるものと考えられる。
ラット、モルモット、ヒトの母乳中にメチル水銀が含有されることが報告されている。
このため、母乳は母体からの排泄経路の1つと認識されているとともに、授乳期の新生児(仔)のメチル水銀の重要な曝露経路でもある。
ヒトの母乳中に含まれる総水銀の16%がメチル水銀であることが報告されており、この割合は、血中におけるメチル水銀として観察されるものよりも極めて低いものである。
b)ATSDR(ATSDR(8))
動物実験において得られた知見が記載されている。
基本的には、NRCと同様である。
c)英国COT(薬事・食品衛生審議会(1))
(薬物動態に係る考察)
授乳中の女性の場合には、メチル水銀はかなりの量が母乳に移行するため、
結果的に、生物学的半減期は約45日となる。
DohertyとGatesは、マウスの乳児における水銀の排泄率は、成熟動物の約1%未満であると報告した。Sundbergらは、マウスの乳児の場合には、授乳17日目までは排泄は低いと報告している。
これは恐らく、胆汁の分泌や細菌叢による脱メチル化(最終的に糞として排泄)が起こらないためである。
ヒトの乳児におけるこれらの過程の関与については明らかでない。
母乳中の水銀濃度は、母親の血液中濃度の約5%である。Amin-Zakiらは、イラクにおける中毒事例では、高濃度のメチル水銀を曝露した女性の場合には、母乳中の水銀の60%がメチル水銀の形態であったと報告している。
よって、母乳中のメチル水銀濃度は、血液中の総水銀濃度の約3%であると、概算できる。
JECFAの新しいPTWI1.6μg/kg体重/週のメチル水銀を乳児(体重7kgと仮定)が摂取するためには、母親は次の濃度のメチル水銀を摂取することになる。
乳児のメチル水銀摂取量=0.23μg/kg体重/日(1.6÷7)
母乳1日摂取量を150ml/kg体重と仮定すると、
母乳中のメチル水銀濃度1.53μg/L(0.23÷150)。
母親の血液から母乳へ移行するメチル水銀が母親の血液中の総水銀の3%と仮定すると、母親の血中水銀濃度=51.1μg/L(1.53÷0.03)。
2003年の評価でJECFAが用いたモデルを適用し、母親の体重を65kgと仮定すると、母親のメチル水銀摂取量=1.36μg/kg体重/日(9.5μg/kg体重/週)。
51.1×0.09×65×0.014
0.95×0.05×65
(感受性の高い集団)
動物実験によると、母乳を介しての曝露は、胎児期曝露にくらべ、中枢神経系への影響はそれほど深刻なものではないことが示唆される。
イラクにおける中毒事故後の5年間の縦断研究のデータによると、母乳を介してメチル水銀を曝露した子供は、運動機能の発達に遅れがみられた。
イラクの事例では、母乳により曝露した乳児は、胎児期曝露にくらべて、危険性が少ないと結論づけられている。
これは脳の発達の多くはすでに終了しており、母乳で保育された乳児に見られる影響は、胎児期曝露の乳児に見られる影響とは異なり、深刻なものではないためである。
イラクの事例に見られた濃度より低い濃度における母乳を介したメチル水銀の慢性曝露については、子供の神経生理学的/心理学的発達に毒性影響を及ぼすという証拠はない。
中枢神経系がなお発達途中にある乳幼児は、メチル水銀に対する危険性が他の集団より大であるかどうかに関しては未知数であるが、データによると、乳児の感受性が増大する可能性は無視できない。
しかし、母乳で保育された乳児と母親におけるメチル水銀の摂取量の相関関係から考えると、母親においては2000年のPTWI3.3μg/kg体重/週の範囲内である場合、乳児の摂取量は2003年のPTWI1.6μg/kg体重/週の範囲内となる。