■公調委に申し立て
そのため、周辺住民24名は、昨年9月18日付けで国の公害等調整委員会に対して公害紛争処理法の規定に基づき、越谷市長と大日本パックェージ㈱を相手取って各申請人に200万円の損害賠償金の支払いを求める責任裁定の申し立てを行いました。
(事件名:公調委平成14年(セ)第4号「越谷市における印刷工場からの悪臭による健康被害責任裁定申請事件」)
これまで裁定委員会は5回開催されていますが、低濃度のトルエンで人体被害が発生するのか、その因果関係を明らかにするようにと求められています。
実は今回のように、工場から排気された有機溶剤による周辺地域住民の暴露によって引き起こされる被害を救済する法律はありません。
しかし、室内空気汚染指針値を参考までに当てはめると、20数倍も上回っていることもありましたので、全く影響がないなどとは考えられません。
この分野の解明が待たれるところです。
さる6月24日には、裁定委員会による工場周辺および工場内発生源の視察と有機溶剤測定が行われました。
このとき、私も代理人として立ち会い、はじめて印刷工場内に入り印刷室や排気口を確認しましたが、相当きついトルエン等の有機溶剤臭を感じました。
周辺地域の大気状態によっては、拡散希釈されずに地表に落下して発症をもたらしたのではないかと考えられました。
触媒燃焼式脱臭装置を設置した後に測定した結果では、敷地境界線でトルエン0.301ppm、周辺地域での最高濃度0.086ppmを計測しています。
■被害の立証を
グラビア印刷工場は全国各地に存在すると思われますが、当地と同様の市街地に立地している場合には、同様の被害が発生している可能性が考えられます。
実際、当地での問題が新聞等で取り上げられてから、茨城県にある共同印刷工場の周辺住民からも同様の悪臭被害の訴えが寄せられています。
問題は印刷用のインクの水性インクへの転換が進んでいないことにあります。
宮田幹夫医師は、「室内空気汚染は時間とともに減少するのがふつうだが、最初に大量の化学物質に接して発症すると、それから後は数値が低い、極めて微量の物質にも過敏に反応するようになってしまう」と説明されています。
最近、環境省所管の財団法人「地球環境戦略研究機関」の本部施設(神奈川県葉山町)で、職員、研究員のうち半数近くがシックハウス症候群の発症を訴え、休職者や退職者が相次ぐという騒動が起き、この原因が室内で発生したトルエンなどの化学物質ではないかとの疑いがもたれています。
約60人の事務員、研究員のうち、半数近い27人がシックハウス症候群や化学物質過敏症、または「これらの疑い」などとする診断書を手にする事態になっているのです。
しかし、この職場環境を計測した結果では、トルエンの最高値は建物内の大半で0.015から0.02ppmというごく低濃度であったとされています。
こうした低濃度域での有機溶剤による人の健康被害の発症の有無について、もっと研究が進むことを願ってやみません。