・出典;化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
・グラビア印刷工場からの排気トルエンで化学物質過敏症様の疑い
藤原 寿和 (化学物質問題市民研究会代表)
■はじめに
住宅建材の接着剤等から発生するホルムアルデヒドやトルエン等による室内空気汚染が原因となって起きる、いわゆるシックハウスやシックスクールあるいは化学物質過敏症といった新たな健康被害が各地で問題となっています。最近では、室内空気汚染にとどまらず、印刷された教科書のインクや接着剤から揮散したトルエン等が原因となって、これらの症状を引き起こしているのではとの疑いも報告されています。
トルエンは、これまで労働環境における許容濃度として100ppmが勧告されていますが、最近の知見でごく低濃度のトルエンの暴露によってもこれらの被害が引き起こされるため、厚生労働省ではトルエンの室内空気汚染の指針値(ガイドライン)を0.07ppmと定めています。
トルエンは、有機溶剤の一種で、主に印刷用インクや塗料、接着剤などに使用されています。
今年3月20日に国から公表されたPRTR届出データによれば、全国で最も排出量の多い物質であることが判明しています。
最近、このトルエンによると思われる工場周辺の住民の健康被害問題が起きていますので、紹介したいと思います。
■ことの発端
問題工場は、埼玉県越谷市の平方地区工業団地内にある大日本パックェージ㈱というグラビア印刷工場です。
東京都足立区内で操業していましたが、一昨年、工場の規模拡大等のため越谷市内に用地を確保して移転してきたものです。
この地区への移転をめぐっては、地域住民の中から公害問題への心配や市と締結した協定違反問題などをめぐって、説明会や公聴会が開かれるなど、反対運動が起きていました。
しかし、住民の要望は退けられ、市は建築確認を出してしまい、昨年1月から操業を開始しました。
ところが操業開始直後から住民の被害の訴えが相次ぎ、中には屋外にいて急に嘔吐とめまいを起こし、救急車で病院に入院という被害の発生も見られました。
住民の中には、北里研究所病院臨床環境医学センターの宮田幹夫医師の診断を受けた結果、トルエンによる化学物質過敏症の疑いがみられるとの診断が出された方もいます。
ところが工場側は被害の発生を認めようとしていません。
しかし、越谷市が行った工場排気口の臭気濃度測定で、県の規制基準を大幅に上回るという測定結果が出たり、工場側の調査により、周辺地域の大気環境中からトルエン濃度が室内空気汚染指針値の0.07ppmを超える測定値(1.429ppm)が見つかるなど、環境への汚染源となっていることが判明しました。
そのため、市は工場に対して改善の指導を行い、今年1月には工場側が触媒燃焼脱臭装置を新たに設置しましたが、その後も周辺地域では依然としてトルエン等の臭気がなくならず、健康被害への不安を訴えています。