・矢ケ崎克馬・琉球大学名誉教授は、
「ウラン化合物から出るアルファ線はごく短い距離しか届かないので、外部被曝を心配する必要はほとんどありません」
と語る一方で、内部被曝の危険性をこう指摘する。
「瓶の中の液体がガス化して粒子が空気中に放出されると、それを吸い込んで被曝する可能性があります。ウランの粒子は体内に入るとアルファ線を出し続け、遺伝子の変成や、細胞破壊をするのです」
東京農業大学の例は、レアケースではない。
市営住宅やマンションが立ち並ぶ一角にある大阪市立大学(大阪市住吉区)でも、05年に、試薬瓶入りの酢酸ウラニル一(10本)と硝酸ウラニル(9本)の計650グラムのウランのほか、核原料物質であるウラン鉱石2個(約270グラム)などが見つかった。
大阪市立大学で放射性物質の管理を担っている平澤栄次教授はこう話す。
「過去に研究で使っていたウランを捨てるに捨てられず、学内のあちこちに試薬瓶で残していました。一つひとつは微量でしたが、かき集めるとかなりの量になってしまった。現在は『核燃料物質貯蔵施設管理委員会』という組織も作り、厳重に管理しています」
核燃料物質を管理する文部科学省は05年と09年、放射性物質の使用許可を受けた事業者に対して、届け出漏れがないかを調べるために一斉点検を実施した。
すると、所在不明になったものを合わせて、08年から現在までに20件以上も、新たに放射性物質が見つかっている。
物質は、ウラン、セシウム、ストロンチウム、ラジウム、コバルトなどのおどろおどろしい名前が並ぶ。
場所は、企業、大学、病院が多いが、東京都港区の個人宅からはポリ容器に入ったトリチウム、プロメチウムが見つかったケースもあった。
前述のように、中には、保管段階で密閉などされていない"放置"状態のものも多かった。
文科省担当者によると、放射線障害防止法ができたのは1957(昭和32)年で、それ以前に購入された放射性物質は届け出されていないことがある。
また、長い間に保管場所が移動して、所在不明になることもあるという。
「我々の間では、事業所からウランなどが突然見つかることを、どこからともなく水が湧いてくる様子に似せて『湧き出し』と呼んでいます」(文科省担当者)
新たに見つかる放射性物質を、ふんだんにある水に例えること自体、管理が行き届いていない現状を認めているようなものだ。