・東京都/清掃工場から高濃度水銀排出
なぜ起きたのか
津川 敬 (環境問題フリーライター)
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◆便利で、しかも危険な化学物質-水銀
かつて水銀は、私たちの生活や産業活動に欠かせない化学物質でした。
代表的なものが水銀入り体温計ですが、血圧計も水銀柱を動かす手ごたえの良さから多くのお医者さんが今も愛用しています。
水銀をスズや銅などで合金にしたアマルガムは、歯を削った後の詰め物として使われてきましたし、蛍光灯や乾電池の材料に水銀は欠かせない原料でした。
このように便利で使い勝手のいい水銀ですが、人体に取り込まれると急性から慢性まで様々な中毒症状を引き起こします。
水銀は常温では唯一の液状金属ですが、その蒸気を吸い込むと頭痛、痙攣、呼吸困難、肺水腫、視力減退、肝不全、腎不全などが起き、皮膚に付着すると全身に皮膚湿疹、浮腫などの症状が出ます。
〈かつて〉と過去形で書きましたが、現在でも水銀は温度計、顔料、防腐剤、殺菌剤、あるいは大学の研究室等で実験用に使われています。
むろん水銀は法律上の指定毒物ですから、所有する人なり事業所で厳重に保管・管理されている筈ですが、現実には危険な水銀がいろいろ形を変えて大気中に出没しているのです。
専門家の話によると、大気中に出る水銀は蒸気、粒子、ガス状の3種類があって、まず蒸気状のものは長く大気中にとどまり、粒子状のものは周辺の建物の状況もあってそう遠くへは行かず、ガス状のものは塩化物や酸化物などと化学反応を起こして二価水銀になります。
いわゆる有機水銀ですが、途中で大気に滞留する可能性もあり、何キロも遠くへ飛ぶこともあるそうです。