・■「第二次決着」でも終わらぬ水俣病
そして現在、これらの未認定患者に対する第二次の補償救済が動き出している。
司法和解が一時金210万円を軸に行われ、2009年に成立した特別措置法による救済も並行して進んでいる。
最近の報道によれば、一時金受給を申請した人、医療費ケアのみの継続を申請した人、それぞれ約2万人に上る。
認定患者は半世紀の累計で2000名程度だが、第一次1万、今回4万、すべて合わせると水俣病と考えるべき健康被害者が不知火海対岸の天草や鹿児島県域も含め5万人を超えて顕在化したことになる。
では、水俣病は今度こそ最終決着となるのだろうか。否である。
先の関西訴訟と同様に、今回の和解や救済の内容に納得せず、あくまで訴訟を継続する人々がいる。
また、認定患者、特に胎児性患者の将来不安に対しては、福祉的政策の拡充が不可欠である。
■チッソを分社化で免責する「特別措置法」
今般の第二次補償救済を行うに当たり、旧与党は、渋るチッソを説得するため、「水俣病特別措置法」に税法・会社法・破産法などの免除特例を多々設け、チッソ分社化免責の道筋を作った。
特措法は、患者救済以上に、事業部門を水俣病債務の足かせから解き放つという「チッソ救済」の法律となってしまったのである。
これは、環境倫理や企業の社会的責任に抵触し、問題の新たな火種となっている。
そして昨年暮れ、環境大臣は特措法に基づき早々とチッソの分社を認可。そして、チッソはJNCという会社を作り、裁判所の認可(普通は株主総会が事業譲渡を決めるが、特措法でその手続きが免除され裁判所が代替)も得て、4月からはJNCに資産も労働者も全面移転、チッソはその株を持つホールディング会社となる。
将来的にその株を市場公開=売却しJNCは完全に「水俣病に責任を持たない会社」となる。
そしてチッソは、一度の株売却益を補償債務返済に充てた後、会社を清算するおそれがある。
未認定患者が今後まだ多数出る可能性はだれも否定できない。
また、埋立地で暫定的に封じ込めている水俣湾のメチル水銀は、囲んだ鋼矢板が腐食に耐えられる限度(50年)以前に抜本措置を取らねば、地震などで再び水俣湾に漏出する危険をまぬかれない。これらをはっきりさせないうちにチッソやJNCが免責されたら永遠に禍根を残す。
その一方で国は、関西訴訟を経たのちの今回の司法和解や特措法決着でも自らを賠償者とは位置付けていない。
したがって、だれも水俣病に責任を持たない事態が将来起こりかねないのである。
■「水俣条約」に追いつかぬ政策
昨年はじめて総理大臣として水俣の犠牲者慰霊式に参列した鳩山首相(当時)は、2013年に締結する水銀規制国際条約を「水俣条約」と名付けたい意向を示した。
これは注目に値するが、水銀規制の国内政策や、水俣病と水俣湾の対策は、その命名意欲に匹敵するレベルに達しているとは到底言い難い。
5月に公式確認から55年目の犠牲者慰霊式を迎える水俣病。これまでの患者発掘と補償救済獲得は、すべて患者被害者自身の懸命な闘いによって切り開かれて来たものだった。
そしてこれからも、患者・住民の闘いこそが水俣病の地平を切り開いていくであろう。
全国からの支援を、続けねばならないゆえんである。