・■朝日新聞4月3日 下水道、遠い復旧 海辺の処理場津波直撃
東日本大震災で東北地方では、上下水道も激しく損壊した。
上水道は内陸部を中心に復旧が進むが、標高の低い太平洋岸にある下水処理場は津波の被害が深刻だ。
全国の自治体が給水車を派遣したり設備修繕を支援したりしているが、下水道の本格復旧には数年かかるとの見通しもある。
「2、3年かかる」
「自宅前で、きついにおいの水がどんどん噴き出していた」
宮城県多賀城市の洋服仕立業、渡辺敬一さん(69)は顔をしかめて振り返る。
約1キロ先にある下水処理場、仙塩浄化センターのポンプなどが津波で損傷し、汚水が逆流。
下水管からあふれ出た。
仙台市の7割の下水を処理する東北最大の南蒲生浄化センターも津波で稼働停止に。孤立した約100人の職員らは管理棟の屋上で一夜を明かした。
どちらの処理場も、国土交通省の仮設ポンプの緊急配備などで処理量は徐々に回復。
住宅地で汚水があふれる事態も収まっている。
ただ、微生物を使って汚水中の有機物を分解除去する本来の工程などは省略されたままだ。
沈殿や塩素消毒といった簡易処理だけで近くの運河に流している。宮城県によると、水の汚れの度合いは地震前の約20倍だが、水質汚濁防止法の規制範囲内という。
国交省によると、東北の太平洋側にある岩手、宮城、福島の3県に147カ所ある下水処理場のうち、21カ所が稼働停止した。
復旧には2~3年かかるという。福島第一原発の近隣の10カ所は原発事故の影響で状況把握もできていない。
処理場の被害が大きかったのは、その多くが沿岸部に集中しているためだ。家庭から出た汚水や側溝から入る雨水を傾斜を使って管路で流すので、処理場は標高の低い所に設けられる。そこに津波が直撃した。
下水管も陥没などで破損し、千葉県浦安市など液状化現象によってマンホールが隆起し、管路が断絶した地域もある。
下水関連の被害総額は、まだ全体像をつかめていないものの「少なくとも数千億円」(国交省下水道部)という。
下水管や処理場が復旧しないと、汚水が路上にあふれ疫病を引き起こす恐れすらある。
このため新潟、札幌、大阪など自治体の下水道事業者からのべ2600人が応援に駆けつけ、被災状況の調査や簡易処理での復旧の手助けをしている。
だが、本格復旧は遠い。
阪神大震災で被災した神戸市東灘区の処理場が本格復旧したのは約4年後。国交省の松井正樹・下水道部長は「生活が平常化するほど下水などの能力不足は深刻になる。節水に協力してほしい」と話す。
上下水道 内陸は回復
「上水道も、沿岸部では津波被害が大きかった。
「一からやり直さないと」。
日本水道協会の御園良彦専務理事は、3月下旬に現地入りし、宮城県石巻市や福島県いわき市で情報を集めた。
「橋の下の配水管が、橋もろとも流された。沿岸部はいつ復旧するか見当もつかない」
厚生労働省によると、岩手、宮城、福島県では、実態把握が進んだ3月16日時点で断水が90万戸近くに達した。
全国から水道事業者が給水車を派遣するなどし、急場をしのいだ。
3県の水道管の耐震化率は2割未満と低い。
ただ、太平洋沿岸とは対照的に内陸部では持ちこたえた管路が多かった。
浄水場もほとんどが難を逃れた。
下水とは逆に、高台にあることが多いためという。
最近は電気の復旧で内陸部を中心に送水ポンプも再稼働している。
3県の断水も約20万戸に減った。
仙台市や福島市など都市部では「9割近くの能力が回復した」という。(鳴澤大、田中美保)