・ (10)原発は大都市から離して建設されるために、超高圧の送電線を新設しなくてはならない。
経済的に大きな負担となり、鉄塔・送電線に大量のエネルギーを消費し、送電ロスを伴い、環境の悪化をすすめる。
電磁波の害もある。
また、長距離送電は電圧・周波数の維持を困難にして、この点でも電力供給の安定性を脅かす。
一九八七年七月二十三日、東京電力管内の一都五県にわたる大きな停電が起きた。
発電能力では余裕があったのに停電したのは、電圧のコントロールに失敗したからだった。
なぜ失敗したかについては、いくつかの理由があるが、その一つが原発だ。
原発は人口の多いところの近くにはつくれないことになっているので、電気の大消費地から遠く離れて建てられる。
東京電力で言えば、福島第一、第二原発も柏崎刈羽原発も、自社の管内を通り越して東北電力の管内につくられている。遠くからえんえんと送電線で送ってくる間に電圧がふらつき、大停電の一因となったのである。
消費地の近くにつくれる発電所なら、こんな停電騒ぎは起こさなくてすんだわけだ。
(11)核燃料サイクルの関連施設、原発のために必要となる他の電源や送電の費用、研究開発費などをふくめた原発のトータル・コストは、きわめて大きい。
その経済的負担を軽減しようとすれば、定期検査期間の短縮など、安全性を犠牲にする対応策をとらざるをえない。
原発のコストは安い、と今でも宣伝されている。
もっとも最近では資源エネルギー庁の試算でも、一概に安いとは言えなくなった。
電気事業に競争の原理を持ち込もうとする「電力規制緩和」の論議の中では、次のような発言が聞かれた。
「短期的な経済性のみに光をあてた議論が先行すれば、膨大な資金投資を必要とする原子力開発に電力会社は躊躇せざるを得なくなる」
(八島俊章東北電力社長--九八年二月二十三日付電気新聞)
(12)以上のような原発の特性は、エネルギー計画から柔軟性を奪い、エネルギー源の多様化を阻み、エネルギー消費を小さくすることや、分散型エネルギー源を開発することを圧迫する。
原子力の最大の特長は、たくさんの電気がつくれることにあると言ってよいだろう。
いま日本で最も出力の大きい原発は一三八万キロワット。
三キロワットの家庭用太陽光発電の四六万軒分に当たる。
設備の利用率を考えれば、実質はその何倍にもなる。
しかしまた、その特長が、電気をたくさん使う社会をつくりあげ、原発なしでは暮らしていけないと思わせるような状況をつくっているとすれば、それこそが最大の問題点だと考えることもできそうだ。
原発の是非がしばしば論争になるが、むしろ議論の分かれ目はエネルギー消費を拡大しつづけるか否かであり、原発はエネルギー消費を拡大しつづけることと切り離せないところに問題がある、と言えないだろうか。