・◆化学物質過敏症とはどのような健康障害か?
1980年代から北里大学・石川グループに対して、米国ダラスのDr.Rea(元テキサス大学助教授心臓外科医。その後アメリカ環境健康センターをダラスにつくり、CS患者の治療を開始した)から、有機リン殺虫剤慢性毒性診断、治療技術取得のためと学術交流の希望があり開始した。
若手医師1名、医療技術士1名を北里大学石川・宮田幹夫の元に派遣、学習し、その成果はUSA学会で発表。それ以後共同研究、医師交換、派遣は8年間継続した。
当時CSの原因は、ホルムアルデヒド、有機リン、トルエン、H2S(硫化水素)、CO(一酸化炭素)、 Hg(水銀)、 Pb(鉛)、 Cd(カドミウム)などが主であると考えられていた。
日米では30歳~50歳代の女性患者が多く、患者数は日本では人口の0.7%くらい(内山巌雄氏らQEESI使用)。
USAの患者推定数は、人口の大小で多少の違いが出てくるが、以下である。
National research council 1987年: 15.0%、4,500万人:化学物質に対して過敏反応を示す。
カリフォルニア州政府1999年: 15.9%、4,800万人: 6.3%は医師によりCS診断。
Georgia州アトランタ市 2003年: 11.2%、3,360万人: 2.5%は医師によりCS診断。
「米国のCSは3.4%」(M.Pall): 2009年10月発表資料による
◆米国でのCSのまとめ
2009年10月16日発刊の中毒の教科書「General and Applied Toxicology 3rd Edition」 J Wiley & Sons にMartin Pall(ワシントン州立大学 生化学、環境医学教授)が"Chemical Sensitivity: A disease caused by Toxic Chemicals"(化学物質過敏症:中毒性の化学物質によって起こされた病気)を書いている。
その要点を紹介すると、CSは非常にありふれた病気だ。
USAでは糖尿病よりも潜在患者は多いのでは? 現在9つの国の疫学研究があるが、米国では3.5%の患者が居る、と推定する。
CSは有毒な環境化学物質で発症する。米国では多い順に殺虫剤、有機溶剤、関連VOC, Hg、Pb等の金属、一酸化炭素、硫化水素ガス(これら物質はCS発症の動物実験で証明すみ。主にUSAの大学研究にて)。病気の進展にはNMDA(編集注: グルタミン酸受容体の一種)が関係する。
遺伝子に関する研究: 高感度の生体反応惹起には現在6つの遺伝子が研究されている(主に米国、カナダ、ドイツ)。忘れてはならぬ事は、CS発症はprimaryには毒物に起因し起きてくる事実が先行する。
発症と病の進行には一酸化窒素、ペルオキシナイトライト(編集注: ONOO- 活性酸素の一種)が関連する。これらにより、Neural sensitisation, Neurologic inflamation(編集注: 神経過敏及び神経原生炎症)が発生しCSに移行する。
過去20年間、USAでは真剣に研究するCS研究者に対し、心因説主張者達が極めて根拠のうすいデータで、妨害、迫害を続けてきた。
しかし、2005年のノーベル賞受賞者が、ある種の胃潰瘍は従来から心因性が有名であったが、それが原因ではなくバクテリア(Helicobacter pylori)であった事を証明した事実を思い起こして欲しい。
今回の私(M.Pall)の主張の結論は: CSは精神心理学的異常ではなく、化学物質により惹起され、生理学的、病理学的にも立派に証明される疾患である。