・2、判決骨子
(1)被告の注意義務
まず、被告は、特段の事情のない限り、建物の建築に当たっては、ホルムアルデヒドの放散が最小限になるようF1等級の建材を用いるべきであり、やむを得ずF2等級などの建材を用いるのであれば、その旨を購入者に開示して購入の是非を選択する機会を与えるか、引渡前にホルムアルデヒド室内濃度
を測定して適切な対処をすべき法律上の注意義務を負うとされました。
また、被告は、開発業者として、建物の買主やその建物の居住者の生命、身体及び財産を侵害しないような基本的安全性を確保する義務を負うことも判示されました。
(2)被告の過失
本件マンションが完成した平成12年時点においては、建物内におけるホルムアルデヒド室内濃度に関する法規制は存在しませんでした。
しかし、たとえそうだとしても、マンション開発業者であれば、ホルムアルデヒド室内濃度について厚生省指針値が設けられていたこと、ホルムアルデヒドの有害性、建材の選択とホルムアルデヒド放散量との関係等の事実は容易に知りうるものであったと裁判所は判断しました。
すなわち、被告は、等級の低い建材を使えば、高濃度のホルムアルデヒドが放散され、その結果ホルムアルデヒド室内濃度が看過できないほど上昇し、健康被害が生じることを予見することができたはずだということです。
また、被告がF1等級の建材を用いていれば、相当な蓋然性をもってCSの発症を回避することが可能であったとも認められました。
したがって、被告には、本件マンション開発にあたり、 F1等級の建材を使用しなかったこと、若しくは原告に対しF2等級の建材を使用していること及びそのリスクを説明しなかったこと、また、完成後にホルムアルデヒド室内濃度を測定して適切な措置をとらなかったことについて過失があると認定されました。
(3)
本件マンションの室内に放散されている化学物質と原告の症状との因果関係
まず、自然科学的な因果関係については、CS自体が未解明の部分が多いものであることから、自然科学的証明は困難であって、本件においても本件マ
ンションの室内に放散されている化学物質と原告に発症したCSとの因果関係について自然科学的証明がされているとは言えないとされました。
しかし、原告がCSの原因物質と接近していること(場所的要因)、接近の時期と発症の時期が近接していること(時間的要因)、原告の生活環境等からみて他に同様の症状を生じさせるような要因が見当たらないこと等の事情を総合すると、本件マンションの室内に放散されている化学物質と原告の症状との間には法律上の因果関係が存在すると認めることができると判断されました。
を損害として認めることはできないものの、売買代金およびこれに関連する費用の合計の4割にあたる約1895万円をもって損害とすると認定されました。
次に、原告がCSによって化学物質による刺激の少ない地域に生活することを余議なくされていること、そのために所得金額も低額にとどまっていること、現在に至るまで深刻な生活上の支障のある状態が続いていること、現時点においてもCSに対する有効な治療法は確立されていないこと等の事実を総
合して、原告の後遺障害は、少なくとも自賠法施行令別表の後遺障害別等級11級1号に該当する状態であると認められました。
また、原告は、就労可能年齢までにわたり少なくとも20パーセントの労働能力を喪失したと認められ、その結果、原告の逸失利益は約670万円と算定されました。
慰謝料については、700万円が認められました。
[1] これまで、CSという健康被害が認められて損害賠償請求が認容された判決は、電気ストーブによってCSに罹患したケースと、医療現場の消毒液によって罹患したケースしかありませんでした。
[2] 建材は、ホルムアルデヒドの放散量の多寡によってJAS規格等による等級が決められています。
F2等級は、現在はF☆☆及びF☆に改正され、最低の等級に位置づけられています。社団法人住宅生産団体連合会は、平成10年に公表したガイドラインで、内装仕上材に用いる合板類をF1類までのものとすると定めています。
(報告:広報委員会 SA)
runより:この判決は画期的でした。現在はシックハウス症候群になると施工業者の責任となり賠償義務が出てきます。
もう泣かなくていいのです。勇気を持って訴訟に踏み切る事も大事です。