・毎日新聞朝刊2006/7/31農が危ない
無人ヘリで水田に農薬散布する。農薬漬けの日本。
毎日新聞朝刊2007/1/31暮らし面
群馬県で無人ヘリコプターによる有機リン系農薬の散布を自粛したところ、過敏症患者が大幅減。
1.農薬漬け
「農薬漬けの日本」というのは、大げさな表現ではなく、事実に即しているのだ。
日本の消費者が潔癖症で、虫がついたり、虫食い跡のあったりする農産物を決して買おうとしないところがあるのは事実である。
それにも増して、生産者が販売価格を下げるような要因(例えば、不ぞろいであるとか、色つやが悪いなど)をもつ農産物を市場に出そうとしない高級志向がある。
病害虫が発生すれば、すべて商品価値ゼロとみなし、廃棄してしまう。
消費者の健康を考えて廃棄するわけではなく、単に商品価値を落としたくないという、高値安定志向のなせる業(わざ)だ。
生産者は病害虫を恐れるあまり、農業協同組合の指導や政府の補助金にも支援され、病害虫対策の農薬を、定性的な表現をすれば、やたらに、必要以上に散布している。
農薬散布が、農作業の中で一番大きく手間がかかるものになっている。
だから、市場に出される農産物は、見た目のよい、虫も食わないような「高級品」ばかりだ。
当然、農薬散布にかかるコストは販売価格に上乗せされるし(なお、政府からの補助金によってコストの一部は補填(ほてん)される)、残留農薬の問題もついて回るから、消費者にとっても関心を払わねばいけないものだろう。
2.農薬散布方法
無人ヘリコプターが主に「病害虫防除」のために1990年代から使われ始め、その使用実績をのばしている。
ある統計では、1999年から2004年の5年間に約2倍に増えている。2004年には、2000を越える機体が飛び回っているという。
無人ヘリコプターというと、多くの人はラジコンで操作する模型飛行機のようなもの想像するかもしれないが、技術の進歩でかなり使いやすく、かつ実用的にできているのだ。
自律制御飛行や可視外飛行が可能なものまでできている(*1)。農薬散布で有人ヘリコプターに取って代りつつあるのは、当然かもしれない。
無人ヘリコプターの価格は一般機種の機体だけで優に1000万円する。しかし、組合組織で共同購入するなどの方法もあり、行政からの補助金も出るから、一般生産者でも利用可能になっている。
それにしても、実にコストの高い方法だ。
農薬散布に手間がかかるといっても、農作業の全体から見れば、限定されるものだろう。
その手間をできるだけ省くために、高価な機材や人員(オペレータ)を導入するのは、割が合わないかもしれない。オペレータは無人ヘリコプターを操縦するために特別な教練を受けることが必要である。
手間を省くというより、散布した農薬によって作業員に健康被害が及ぶのを防ぐ効果が大きいのだろう。
つまり、人の代わりに無人ヘリコプターをロボットとして使用しているわけだ。
なお、そのオペレータに農薬の中毒症状が出るケースもあるようだ。
最初、風上に立っていたとしても、操縦に気を取られ、風向きが変わったときに、農薬を浴びてしまうことがあるのだろう。