・歴史日本において、ANが昔から精神の病として存在したことは、文学作品である『源氏物語』に窺い知ることができる。
『源氏物語』第三部の宇治十帖で夭折する宇治の大君は、没落した宮家の姫君であり、経済的基盤のある身内がいない。
大君の父の宇治八の宮は主人公の薫に娘である二人の姫君の後見(結婚のこと)を託して死亡する。
結婚したくない大君は代わりに妹の中君を薫に娶せようとするが、中君は次の東宮と目される匂宮と結婚してしまう。
しかし、正妻になる社会的地位を有さない中君と匂宮との結婚生活が苦渋に満ちたものであると思い込んだ大君は、自分が薫と結婚しても同じことになると悟り、ANに罹って衰弱死するのである。(出典:「源氏物語」紫式部)
症状ANは、精神神経疾患の中では、致死率が高い疾患のひとつであり、最終的な致死率は5%-20%程度である。
主な死因は、極度の低栄養による感染症や不整脈の併発である。
患者は自己の体重が減少することに満足できるため、自殺が死因となることは神経性大食症(過食症)と比較して少ないが、 抑うつ症状を伴うこともあり、自殺企図をきたす症例もある。
ANは、自分が太ることに対する恐怖感や体重を落とすことに対する快感を覚える精神的要因から、無食欲状態に陥り、食事を摂らないか、極端に少量しか摂らなくなり、無理して食べると嘔吐してしまうのが主な症状で、これによって以下の合併症を引き起こす。
極度の体重減少
女性の場合、無月経
活動性の上昇、易興奮性、睡眠障害
抑うつ症状
食物への興味の上昇…しばしば料理関係の情報を収集する
強迫的な思考
強い拘り(自分で決めたルールに沿って行動する)
脳の委縮により怒りっぽくなる
物事に興味・関心がなくなる
笑わなくなる
自傷行為
手掌・足底の黄染(高カロテン血症)
低血圧
低体温
徐脈
便秘、腹痛
電解質代謝異常、特に低カリウム血症
骨粗鬆症
続発性甲状腺機能低下症
色素性痒疹…胸や肩などに痒みの強い発疹が出現する皮膚疾患
電解質代謝異常は、特に利尿剤の乱用が見られる症例では起こりやすく、時に低カリウム血症から致死性の不整脈をきたし、急激に死に至ることがある。
また、これらの個人に属する症状に加えて、極度の体重減少や易刺激性が、周囲との関係不良をもたらすことも大きな問題となる。
診断DSM-IVの診断基準では、「標準体重の85%の値を維持することを拒否する」「体重が減少しているときでも、現在の体重が増加することに対して恐怖がある」「標準体重に満たない場合も、自分自身の体重を多すぎると感じる」「(初潮後の女性の場合)3周期以上に渡る無月経」の4項目を診断基準としている。
さらに、
活動性の亢進があること。
体重を落とすため、必要以上の運動・活動を行うこと。
現在の病状、深刻性について、認識に乏しいこと。
を組み合わせて診断を行う。診断基準に完全には合致しない場合に、非定型摂食障害(特定不能の摂食障害)の診断になることがある。例えば月経が不順ながら存在し、その他はANの基準を満たす場合、非定型摂食障害と診断される。
摂食障害の患者は時に診療を拒否し、問診の際に症状を隠す傾向にあるため注意が必要。