・柳沢 予防に対する考え方としてもう一つ大事なことは、トータルにものを見る、確かにそうだと思います。
私たちは生きるために、一日にいったいどれくらいのものを体の中に入れているでしょうか。
まず水を飲みます。重さにして1キロか2キロくらいです。食べ物を食べます。平均すればこれも1キロか2キロくらいです。
空気はどのくらい体に入れるでしょうか。
空気にも重さがあって1日に15キロくらいです。
重さでいえばいちばん多いのが空気です。
寝ている時も呼吸しますから。しかもその大部分は室内の空気です。
それが化学物質過敏症の要因になっているのです。
予防の上では空気の質がいかに大事か、よくわかると思います。
では最後に治療についてお話いただきましょう。
こういう患者住宅ができて、化学物質の濃度を計ってみると非常に低く、ガイドラインを下回っているわけです。
しかし患者さんの中には、そのような住宅の中でも反応する人が出てくるかもしれません。化学物質過敏症は、そのくらい一人ひとりの症例が違うわけですから。
強い期待が集まっている施設だけに、運営には充分考慮が必要だと思いますが。
小池 私もまだ多くの患者さんと接しているわけではないのですが、患者さん同士でもお互いに反応し合う、それくらい鋭敏な感覚になっているわけです。
ですから万人に対してパーフェクトということは恐らくないのだろうと思います。しかしそうであってもできるだけ最大限の努力をして、それを小さくしていくことは可能であろうということで、今回の住宅を一つのきっかけとし基盤として、一人ひとりの症例に対して新しい工夫、発想をしていきたいと考えています。
それを生み出さなければいけないと思っています。
ちょっと後戻りして恐縮ですが、先程の予防の話ですが、私は行政職員ですのでこういった市民の皆さんの健康をどう守るかが大切な役割です。
ですからできるだけ早い段階で、きちんと相談ができる体制をつくっていくということも大事ではないかと思っています。
あれちょっと変だなと思った時点で、手遅れにならないように、行政はフォローできる知識と体制を持っていなければならないと思います。
柳沢 今日は化学物質過敏症の患者さんが避難できる住宅を中心に重点的にお話したわけですが、われわれが暮らす室内というのは、これ以上化学物質過敏症の患者さんを増やさないために、維持しなければならない室内の空気の質、室内の環境が必要なわけです。
それと不幸にして、あるいは幸運にして非常に鋭敏になった人たちが過ごせる場所の確保。この二つを明確にして考えていく必要があるのかもしれません。特に最近、学校に化学物質過敏症にかかった子供たちがたくさんいることも問題になっています。
その子供たちが通えるような学校も必要です。
日本中の学校がそうなればいいのですが、そのためにはどれだけのコストがかかるかわかりません。
したがってそれぞれの地域で少なくとも一校くらいは、そういう学校があってもいいわけです。
そういう配慮がなければならないのです。
残りの学校は全部、化学物質過敏症をこれ以上増やさない努力、つまり予防しなければならないわけです。
そこまで考えないと、今後子供たちが教育を受けられないことにもなりかねません。
残念ながら、私が教えている東京大学の中でも意識はまだまだ低いというのが実態です。
この問題を個人住宅から学校や公共の場にも広げて、折りあるごとに考えていきたいと思います。
小さな一歩から大きな効果へ。
旭川市から始まって北海道全体、日本全体に大きな利益をもたらすように、そう考えてこの共同研究を推し進めたいと思います。
長い時間ご静聴くださいまして有難うございました。
runより:この話の中で変わった事といえば化学物質過敏症が保険適用になり、北里研究所病院のクリンルームが無くなったくらいの事ですね。
9年前からほとんど前進できてないのが現状で、シックスクール、化学物質過敏症に対する風当たりは強いままです。