・3.どうすればよいのか
(1)条例から学ぶ調査契機の拡大、情報の承継
東京都、埼玉県、愛知県などは、3,000平方メートル以上の土地改変時に調査義務を課すなど、調査の契機を拡大している。
また、三重県は、自主調査における土壌汚染判明時の報告義務付けを行っている。さらに、土地譲渡等の際に、土壌汚染に関する情報の引継ぎを義務付けている自治体もある。
このような条例の考え方は、今後の土壌汚染対策法のあり方の参考になるのではないか。
(2)汚染土壌の移動規制
汚染土壌の移動については、現在通知によって運用されている管理票制度を法制度化することが考えられる。
(3)善意の取得者免責
不動産の取引安全のためには、善意で汚染土地を譲り受けたものは、土壌汚染対策法上の対策義務を負わないという考え方もある。
しかし、土壌汚染対策法は、土地所有者に第一次的な調査・対策責任を課しており、この根本を覆すことにより調査・対策が困難になる危険がある。
(4)PCB特別措置法との整合性
PCB特別措置法は、汚染原因者が浄化費用を負担すべきものとなっている。
土壌汚染のなかにPCB汚染が含まれている場合には、PCBの部分だけ汚染原因者へ浄化費用を請求することになるが、これは合理的なものか疑問がある。
土壌汚染対策法とPCB特別措置法との整合性を取る必要があるのではないか。
(5)基準値は適切か
土壌汚染対策法では、汚染の有無の判断について環境基準をそのまま採用している。
しかし、自然由来で環境基準を超過する地域が広範囲にあるという現状にあって、この値をもって一律に指定地域として対策を行うことが適切であるかどうか疑問である。
指定基準だけではなく、対策発動基準、対策目的基準など、複数の基準値があってもよいのではないか。
また工場地域と住宅地域で同じ基準で考えることが適切かも疑問がある。
4.改正の内容
(1)法案の内容
環境省は、土壌環境施策に関するあり方懇談会報告を作成し、さらに中央環境審議会の答申をふまえて、今年の3月13日に改正案を国会に提出した。その主な概要は以下のとおりである。
1 土壌汚染状況把握の制度拡充 一定規模以上の土地開発について調査命令の対象とするとともに、自主調査において判明した土壌汚染について、土地所有者等の申請に基づき規制対象区域とする。
2 対策方法の明確化 規制対象区域を、形質変更届出が必要な区域と措置実施が必要な区域に分け、どのような対策を行う必要があるかを明らかにする。
3 搬出土壌の適正処理確保 規制対象区域からの土壌搬出を規制し、運搬についての管理票交付・保管を義務づけるとともに、汚染土壌の処理業について許可制度を新設する。
(2)国会での審議
衆議院では、特に築地市場移転問題を契機として、公益的施設に土壌汚染が存在することの問題点が指摘された。
そこで、修正案として、公園、学校、卸売市場等の公益的施設については、都道府県知事が土壌汚染の有無について把握させるよう努力するとの規定が追加され、可決された。
参議院では、法案の修正は行われなかったものの、6項目の付帯決議が行われた。
そのなかには、土壌汚染の未然防止措置、工場等の操業中の段階から計画的に土壌汚染対策に取り組み、土壌からの揮発経由による摂取リスクの研究や、生活環境や生態系影響についての実態把握、企業の環境債務計上や情報開示の実施、中小企業への配慮などを検討すべきとし、重要な指摘が行われている。
5.改正法の与える影響
改正法は、調査契機の拡大と対策の合理化を目指すものであるが、実際に機能するかは今後の課題であろう。
土地所有者の負担が増えることから、調査・対策を回避し、結果として売買が出来ずに塩漬けとなる土地が増えることも予想される。
また、工場操業中の対策が進むことは期待できず、地域住民の不安に対する解決策も示されていない。
有害物質の不適切な使用が結果として土壌汚染を引き起こしていることを考えると、本来は有害物質のトータルな管理のなかで土壌汚染問題を検討する必要があるのではないだろうか。
参議院の付帯決議は、土壌汚染対策法の今後の課題をよく示しており、これをふまえた法律の運用及びさらなる改善が望まれる。