・3.横浜市における振動・低周波音被害責任裁定申請事件
(1) 経緯
平成13年12月、横浜市の住民(同一世帯の3名)から当委員会に対し、店舗兼住居(以下「本件建物」という)の真下約18メートルを市営地下鉄が通過して引き起こす振動と低周波音により、自律神経失調症等の健康被害を受けたとして、地下鉄を運行する横浜市を相手取って損害賠償を求める責任裁定申請があった。
当委員会は、直ちに裁定委員会(裁定委員長・加藤和夫)を設けて、調査及び申請人・参考人の尋問等を行ってきたが、平成15年1月28日の第9回審問期日をもって審問を終結し、3月31日付けで裁定を行った。
(2) 測定結果
本件では、申請以前に測定業者による本件建物の振動・騒音・低周波音の測定が実施されており、当該測定結果が証拠として提出された。
測定結果によれば、列車通過時の振動レベルは、夜間帯及び深夜帯を通じ、屋内1階で35~41デシベル、屋内2階で39~47デシベルであった。
また、列車通過時の低周波音については、1/3オクターブバンド周波数分析上、自動車通行の減る深夜時間帯において、屋内1階では卓越成分を見出せないが、屋内2階では10ヘルツに62~63デシベルの卓越成分が観測され、暗騒音より15~20デシベルほど高い数値を示した。
他方、自動車走行時には、12.5ヘルツに卓越成分が見られ、屋内1階で60デシベル、屋内2階で64~67デシベルが観測された。
これらの測定結果に基づき、申請人は当該レベルの低周波音に起因して外因性自律神経失調症である「低周波音症候群」の健康被害が生じていると主張し、他方、被申請人は当該レベルでは低周波音も振動も感覚閾値に達さず感知し得ないものであって、健康影響も生じないと主張した。
(3) 低周波音の感覚閾値及び健康影響に関する知見
ア.感覚閾値
音の感覚閾値のうち、20ヘルツ以上の可聴音の閾値(最小可聴値)はISOにより定められている。
他方、超低周波音あるいは低周波音の感覚閾値は、「低周波空気振動に対する感覚と評価に関する基礎研究」(前出)を始め、多くの研究者による研究があり、これらの研究成果から、超低周波音の感覚閾値も概ね可聴音の閾値の延長線上にあるとされている。
もっとも感覚閾値には、実験方法や実験施設の違いにより5~10デシベル程度の差異が生じているほか、感覚閾値には個人差も認められるが、それらは実験上の平均値と10デシベル程度の差の範囲内にあるとされている。
なお、人が可聴音を感知するのは聴覚器官においてであるが、可聴域以下の音である超低周波音を感知する機構としては、振動感覚、加速度感覚又は聴感覚として感知することなどが考えられている。