・【低周波音被害の評価】
○楊井 深川の事件は、被申請人側が対策をとったことで一旦は調停が成立したのですが、その後、また、被害があるということで今度は、義務履行勧告申出ということで再度公調委に事件が係属しています。
低周波音の事件はいろいろ難しい点もあるのですね。
それでは、全体を通じての低周波音被害の問題についてどのような感想を持ったかお聞かせいただけませんか。
○塩田 今回、幾つかの低周波音事件に関与して、私が感じた一つとして、低周波音被害を評価する際に、対象者の測定データに関して、その評価の考え方に前進がみられたということです。
今まで、ほとんどが健康な方、大学関係ですと20歳代の健康な学生に協力してもらって、実験的データをとり、それらのデータに基づいた評価曲線等を利用して評価してきていることが多いと思います。
ところが、苦情者や紛争処理の申請をしてくる方々の年代を見ると、大体50歳代の後半から60歳代以上の方が中心です。
これまでこのような方々の実験データが存在しなかったわけです。
そういった意味で、今回、特に、高齢者(苦情者)たちの協力によって、その方々の感覚閾値が実験により明らかになり、その実験データと一般人の実験データとの比較から、その違いが明らかになったという点において前進があったわけです。
また、音の聞こえ方とか全身振動の感じ方も個人によって皆違うのです。
今までのように、例えば、1,000人集めて統計学的にこうですよといっても、70%の人には合致するかもしれないけれども、30%の人には合致しない。
今までは、合致する人を前提にして決めていたため、合致しない方々は、考慮の対象外にあったのです。実際、そのような方々が沢山存在していたのだということです。
その考慮の対象外にある人たちについては、基本的な部分に何の実験データも存在していなかったわけです。
それが、今回、実験データが得られたことにより明らかになったことがあるのです。
実は、低周波音でも周波数により高齢者の人たちが一般の人よりも聞こえにくい部分があること、すなわち標準的な感覚閾値よりも上がっているところがあることが分かったわけです。
今まで私たちは、工学的な面から言えば、ある周波数成分のレベルを下げることにより、技術面では、解決可能であると言ってきました。
しかし、心身的な影響に関しては、防止対策により、本当に、その人が納得するという保証は何もなかったわけです。それが、このような苦情者の感覚閾値を知ることによってきめ細かな対策をとれる可能性が出てきたのです。
○荒井 先生のおっしゃっていることを行政の場合に当てはめてみますと、例えば私が水道水の水質基準の作成に携わった経験では、子どもの場合は体重が50キロないわけですけれども、ヒトの体重は50キロあって1日2リットル水を飲むという仮定の下に、どれくらいの濃度で良いというふうにつくっていくわけです。
最近は子どもはどうかとか、高齢者の方はどうだということも配慮するようになって幅が広がってきたと思っていますが、しかし、行政だと最大公約数を見ていきますので細かな対応は難しい。
そういう意味で言うと、公調委は個別の案件を見ているわけですから、ある程度細やかな対応ができると思います。
当面、低周波音について一律の規制を導入するようなことはないようですし、個別の案件からデータを集めていって行政に生かすという公調委と行政の協力関係が大変重要だと思います。