・D.ストレスたんぱく質(熱ショックたんぱく質)の影響
ほとんど全ての生物に、環境毒物や環境に悪影響を与えるものから攻撃を受けると、細胞で始まる特別な防御がある。
これはストレス反応と呼ばれ、ストレスたんぱく質(「熱ショックたんぱく質」としても知られる)を作る。植物、動物、バクテリアは、高温、酸素不足、重金属汚染、酸化ストレス(早まった老化を起こす)のような環境ストレッサーを生き残るために、ストレスたんぱく質を作る。
私たちは今、生理学的なストレス反応を引き起こす環境ストレッサーのリストに、ELFとRF被曝を加えることができる。
非常に弱いELF とRF 被曝は、ストレスたんぱく質を作る細胞を発生させる。それは、ELF とRF 被曝を有害なものとして細胞が認識したことを意味する。
これは、科学者がELF とRF 被曝が有害なことを証明する重要な方法で、その影響は現在の公衆安全基準より遥かに低いレベルで発生する。
さらに加わった懸念は、ストレスがあまり長く続くと、防御効果が減ることだ。ストレスが長く続くと反応は減少し、防御効果は低下する。
これは、細胞が損傷に対して防御が少ないこと、そして、非常に弱い被曝でも、長く続くまたは慢性的な被曝がきわめて有害かもしれない理由を示唆する。
防御反応を活性化する生物学的経路は、ELF もRF 被曝も同じで、非熱効果だ(非熱効果は、体温上昇や電流誘導を起こさず、そのため熱効果からの防護に基づいた安全基準は、的外れで防御できない)。わずか5~10mGのELF 被曝レベルが、ストレス反応遺伝子が活性化することを示してきた(セクション6、表2)。
SAR値は生物学的なしきい値や量の適切な尺度ではなく、安全基準の根拠として使われるべきではない。
SARは熱損傷に対して規制するだけだからだ。
E. 免疫系の影響
免疫系は、侵入する微生物(ウィルス、バクテリア、その他の外部の分子)に対するもう一つの防御だ。
それは、病気、感染症、腫瘍細胞から私たちを守る。数多くの種類の免疫細胞が存在する。それぞれの細胞のタイプは特定の目的があり、体が有害だと確認した、さまざまな暴露から体を守るために働き始める。
現在の公衆安全基準で認められたレベルで、ELF とRF 被曝が、炎症性反応、アレルギー反応、正常な免疫機能の変化を起こすことが可能だ、という十分な証拠がある。
体の免疫防御システムは、ELF とRF被曝の危険性に気づき、ストレスたんぱく質を作る体の反応のように、これらの電磁場を免疫防御の標的にする。
非常に弱いELF とRF 被曝が(a)細胞によって認識され、(b)まるで被曝が有害かのように反応を起こす、という付加的な指標がある。
アレルギーや免疫反応を増やす要因に慢性的に曝されることは、健康にとって有害なようだ。
慢性的な炎症反応は、時間がたつと細胞間、組織、器官の損傷につながる。多くの慢性疾患は、免疫系機能の慢性的な問題に関連性があると考えられている。
ヒスタミンのような炎症性物質の放出は、皮膚反応や腫れ、アレルギー性敏感性、防御メカニズムに関わるいくつかの正常な反応を起こすことがよく知られている。人間の免疫系は、周囲の環境からの有害な曝露から守るための一般的な防御バリアの一部だ。
免疫系が何らかの攻撃で悪化する場合、数多くの種類の反応する免疫細胞がある。免疫反応の引き金になるものは、慎重に評価されるべきだ。
慢性的な免疫系の刺激は、正常な方法で反応する免疫系の能力を、時間がたつと損なうかもしれないからだ。
測定できる生理学的変化(たとえば、皮膚のマスト細胞の増加は、アレルギー反応や炎症性細胞反応の指標だ)は、非常に弱いELF やRF によって誘発される。ELF やRFによって活性化するマスト細胞は、アレルギー性皮膚反応の症状を起こす炎症性化学物質を放出し、破壊(脱顆粒反応)する。
携帯電話やコンピューター、ビデオ・ディスプレイ・ターミナル、テレビの使用、その他の発生源から生じるレベルのELFやRF への被曝が、これらの皮膚反応を引き起こすという非常に明白な証拠がある。皮膚の敏感性での変化は、皮膚生検法によって測定されており、その結果は注目に値する。
これらの反応のいくつかは、日常生活の無線技術への被曝と同等のレベルで起きる。マスト細胞は脳や心臓でも見られ、おそらく、ELF やRF 被曝への細胞反応による免疫細胞の標的だ。
そして、これは、一般的に報告された他の症状(頭痛、光への過敏性、心臓不整脈、その他の心臓の症状)の説明になるだろう。
ELF やRF 被曝による慢性的な刺激は、被曝が長い間続くと、免疫の機能不全、慢性的なアレルギー反応、炎症性疾患、病気につながる。
これらの臨床的発見は、電磁波過敏症の人の報告の説明になるだろう。
電磁波過敏症は、どんなレベルのELF やRF 被曝にも耐えられない状態だ。十分な科学的評価(管理された状況下で、もしそれが可能なら)はまだないが、多数の国からの個々の事例に基づく報告は、おそらく人口の3~5%を電磁波過敏症と概算し、大きな問題になっている。
多種化学物質過敏症(訳注:身の回りの微量な化学物質に反応し、体調を崩す症候群)のような電磁波過敏症は、発症者を無力にし、発症者は仕事や生活環境で徹底的な変化を求められ、大きな経済的損失と個人の自由の消失に悩まされる。
スウェーデンでは、電磁波過敏症は完全な機能的損傷として公式に認められている(つまり、病気としては認められていない―セクション6 付表A参照)。
F. 信頼できそうな生物学的メカニズム
信頼できそうな生物学的メカニズムは、弱いRF やELF 被曝について報告されたほとんどの生物学的影響の論理的な説明になることを、私たちは既に確認した(遺伝子毒性につながるフリーラジカルからの酸化ストレスやDNA損傷。非常に低いエネルギーで分子メカニズムは、病気につながるようだ。
たとえば、酸化損傷につながる電子移動率の影響、突然変異と異常な生合成に結びつくDNA活性)。
伝統的な公衆衛生と疫学の規定が、病気と電磁場被曝の因果関係を推論する前に、真実であることを証明するメカニズムを求めないことを、思い出すのも大切だ(12)。
メカニズムの証拠がわかる前に、賢明な公衆衛生反応が実行されことは何度もある。「フリーラジカルによるDNA損傷が、人間のがんの大部分で初期の腫瘍安定状態と考えられることを考慮すると、酸化損傷からDNAを守るメラトニンの能力は、白血病を含む数多くのタイプのがんについて、明らかに含意がある。(Cerutti ら、1994)。
がんに加えて、中枢神経系へのフリーラジカル損傷は、アルツハイマー病やパーキンソン病を含む老化した神経変性疾患の多様で重要な構成要素だ。
これらの状態の実験動物モデルで、メラトニンは発症を未然に防ぎ、症状の重さを軽減する有効性が高いことを証明
した(Reiter ら、2001)」(13)。
中枢神経系へのELF からの損傷を伴う病気とがんについて、DNAを傷つけるフリーラジカルの作用による酸化ストレスは、信頼できそうな生物学的メカニズムだ。