・5.乳がん
ELF が関わる乳がんの科学的研究の多数の分野から、いくぶん強い証拠がある。
過去20 年間、男性と女性の両方でおびただしい疫学研究(人間の病気の研究)が行われてきたが、この関連性は科学者の間で議論の余地を残している。これらの研究の多くは、ELF被曝が乳がんのリスク増加に関わると報告した(全ての研究がリスク増加を報告しているのではないが、同時に、私たちは科学的な結果の100%、または50%の一致でさえ期待していないし、合理的な予防的行動を採るために一致を求めていない)。
職場での女性に関する研究の証拠は、10mG以上の長期間の被曝で、電磁場が女性の乳がんのリスク要因であることをいくぶん強く示す。
比較的高いELF(10mG以上)に被曝して働く人々の乳がん研究は、この病気の率が高いことを示す。
ELF に被曝する労働者のほとんどの研究は、高い被曝レベルが2~10mGのどこかにあることを明確にした。
しかし、この種の比較的弱いELF 被曝と比較的強いELF 被曝の混合は、まさに、現実のリスクレベルを弱めるために作用する。
多くの職場研究のグループ被曝で、最も高いグループは4mG以上だった。
これが意味するのは、a)少数の人々はもっと高いレベルに被曝し、b)病気のパターンは4mG以上の比較的低いELF レベルで現われる、ということだ。
これは、933~1000mGを対象にした現在のELF 制限が、リスク増加を報告する被曝レベルと関係がないことを証明する方法の一つだ。
人間の乳がん細胞を対象にした実験研究は、6~12mGのELF 被曝が、乳がん細胞の成長を抑えるメラトニンの防護反応を妨げることを示した。
この10 年で、弱い環境レベルでELF に被爆すると、人間の乳がん細胞が速く成長することが証明された。
これは、ELF 被曝が体内のメラトニン濃度を減らす理由の考察になる。
乳がんの培養細胞にメラトニンが存在すると、がん細胞の成長を抑制することがわかっている。
メラトニンがないと(ELF 被曝やそれ以外の理由によって)、より多くのがん細胞の成長につながることが知られている。
乳がん腫瘍のある動物を使った実験研究は、ELF と化学的腫瘍促進物質に同時に曝すと、腫瘍がより多く、より大きくなることを示してきた。
これらの研究は、総合すれば、ELF がおそらく乳がんのリスク要因であること、そして重要なELF レベルは多くの人々が家庭や職場で被曝しているレベルより高くないことを示す。
リスクの論理的な疑いが存在しており、そして、それは新しいELF 限度値を勧告し、予防的行動を正式に認めるための十分な証拠になる。
乳がんになる生涯のリスクが非常に高いこと、そして予防の決定的な重要性を考えると、ELF 被曝は、高いELF 環境で長期間過ごす全ての人々のために減らすべきだ。
ELF 被曝の減少は、乳がんになった人々にとって特に重要だ。
2mGや3mGを超えるELF 場で小児白血病の患者の生存率が低い証拠を考えると、療養環境のELF レベルは低くするべきだ。
乳がんのリスクが高いかもしれない、これらの人々のための予防的行動も正当だと認められる(とくに乳がんになるリスクを減らすために、タモキシフェン[訳注:抗腫瘍薬]を摂取している場合、ELF 被曝はこれらの低い被曝レベルと同じでも、メラトニンだけでなく、タモキシフェンの有効性も減らすかもしれない)。
乳がんとELF 被曝の関連性を裏付ける、私たちが既に持っている証拠の重要な部分を無視することは許されない。
この病気によって起きる莫大なコストと社会的、個人的負担を考えると、決定的な証拠を待つことは支持できない。
人間の乳がん細胞の研究といくつかの動物実験は、ELF が乳がんのリスク要因であるかもしれないことを示す。人間の乳がんの研究と同様、細胞研究や動物実験から、乳がんとELF 被曝の関連性を裏付ける証拠がある。
議論するためのがんの争点がいくつかある。
電磁場被曝が全てのがんやその他の病気の最終的な結果に関連性がある、または電磁場(ELFとRF の両方)への被曝でいっそう悪くなるかもしれないという仮定を、今、作ることは理にかなっている。
1 種類以上のがんに関連性があるなら、なぜ全てのがんのリスクが議論されないのだろうか? 現在の知識の状態が人間の健康を除外したり妨げたりする、と主張することはもうできない。
この問題に関わる予防的行動を採らないと、人々が苦しみ、莫大な社会的コストが発生するので、現実の公衆衛生政策が必要だ。
そして、政府機関が手にしている証拠の根拠に基づいて、公衆衛生保護を行なうことが必要だ。