・5 「スジ」と「スワリ」の問題の総括
以上で、具体的事例の検討を終えることにいたします。
事件の「スジ」と「スワリ」という、ある種の直感を過信してはならないことは当然のことですが、公害環境に係る紛争の「スジ」や見通しについての総合的感覚を大切にして、問題点を深く検討し、十分な調査を経た上で、「スワリ」のよい解決を行うことは、紛争解決のあり方として極めて重要であることが分かっていただけたのではないでしょうか。
紛争解決の「スジ」には、法律の規範的論理のみならず、経済的効率性、科学的知見を含めた、法律外の多様な紛争解決規範を考慮する必要があります。
また、「スワリ」のよい解決といえるためには、紛争当事者のみならず、社会構成員全体に対する納得・説得という社会的観点も重要です。
以上で検討した「スジ」と「スワリ」の問題は、事後的に紛争を振り返ってみたときの紛争の全体像の点検という問題です。これとは別に、事件の見通しを立てるための「スジ」と「スワリ」という問題も考えられます。
例えば、公害苦情でよくある例として、騒音苦情で現場に赴いて、騒音の程度を耳で聞いたり、実際に測定をしたりしてみても、発生源側の騒音レベルは大きくなく、なぜトラブルになっているのかをよく把握できないというケースがあると思います。
このようなケースでは、皆さんは、この騒音苦情申立者の相談は無理「スジ」であり、発生源側に騒音対策を指導するという解決策は「スワリ」が悪いと感じられることが多いと思います。
この感覚は、その苦情の背景には、騒音以外の隣人トラブルが原因として存在するのではないかという一種のシグナルを発していると考えられるのです。公害苦情相談の処理に当たっては、この感覚を大切にして、騒音以外の原因についても調査をし、その結果を踏まえて、解決策の見通しを立てることが肝要です。
6 むすびに代えて
最初に述べましたが、公害苦情相談には、二面性がありますので、関係法令の規制基準に違反するときに、その行為に規制を加えるという規制行政の視点は必要ですし、大切です。
しかし、これが全てではありません。民事責任(因果関係・受忍限度)との接点を念頭に置きつつ、公害苦情相談の処理に当たる必要があります。
しかし、これも全てではありません。
要は、この規制行政の側面と民事紛争の側面をバランスよく処理し、紛争解決の実質が「スジ」の通った「スワリ」のよい解決になっていることが大切なのです。
全国に毎年10万件もある公害苦情相談を第1次的に処理されているのは、皆さんです。
今後も、大量の公害環境紛争を水際で処理されているという自覚と、その結果、住みよい住環境が保全されているということの誇りを持たれて、「スジ」、「スワリ」のよい紛争解決を目指し、関係者に粘り強く働きかけていただきたいと思います。
皆さんの今後のご活躍を期待しております。