騒音・低周波音の事例5 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・2)各事例の検討
ア 事例1
事例1については、なるほど、Xは、後住者ではありますが、事例2の場合とは異なり、同じ生活空間の利用ルール(第二種区域の規制基準)を共有する者の間の騒音苦情ですから、規制行政の観点からはもとより、受忍限度の観点からも、その規制基準を「スジ」として、例えば、室外機をX宅の反対側に移設するなどの措置をYにとらせるのが「スジ」ですし、その騒音防止対策は、Yの費用負担において措置させるのが「スワリ」がよいといえるでしょう。

事例1の問題点は、Yが、X宅一帯を開発したAとの間で、開発に当たり、騒音防止対策は、A側で行うとの口頭の合意があったと主張している点です。

確かに、被害者であるXも、このようなYとAとの間の口頭合意を了解して、本来、騒音防止措置をとるべき者はAであると認識していたというのでしたら、Yではなく、Aに上記対策を措置させるのが「スジ」に合致し、Aの費用負担で対策をさせるというのが「スワリ」がよい解決であるとの評価も可能でしょう。ただ、ここで留意すべき点は、上記の議論は、上記の口頭合意等の付加的事実が存在する(あるいは、関係者間に争いがない)ことを前提にしているという点です。

もし、この点について、関係者間に争いがあり(Aは、そのような約束をしていないとか、Xは、Y、A間の合意を知らないと述べている場合など)、合意書面や関係者の供述などの確実な資料が存在しない場合には、Aが騒音防止対策をとるのが事案の「スジ」に合致し、「スワリ」がよい結論だとはいえないのです。上記前提事実の存否について、関係者(X、Y、A)から事情を詳しく聴取したり、合意文書の存否を確認したりしても、そのような事実関係の存否が不明である場合には、それを前提とした解決は困難であることについて、関係者の共通認識を形成しておくことが肝要です。
イ 事例2
事例2については、Yの経営する印刷工場とXら宅の間に規制区分の境界があり、そこを境に騒音規制基準が異なるという点が問題の所在です。

事例2では、Yは、規制基準を遵守しているので、Yに騒音規制法に基づいて、規制行政として騒音防止対策を求めることは困難ですし、また、Yが規制基準を遵守していることに加えて、Xらの後住性(用途地域指定の経緯)を考慮すると、Yの出す騒音が受忍限度を超えているといえるかは微妙です。

事例2については、その解決への「スジ」道を立て、「スワリ」のよい解決をするためには、まずは、生活空間利用の新ルールを定める必要性があります。

Yの工場騒音が受忍限度を超えていると判断することは困難ですので、生活空間利用の新ルールを定めるに当たっては、生活空間の利用権を基本的にY側に賦与し、Xらは、現状での騒音レベルについては、Yに対し、そのレベルをさらに低減することを要求するようなことはせず(生活空間の利用権の賦与を受けないものとして)、むしろ、各人において、住宅側に植樹したり、窓ガラスを二重サッシに取り替えたりするなどの騒音防止対策をとらなければならないものとすべきでしょう。

行政当局としては、Yに、強い働き掛けをすることが困難である以上、Xらに対し、本件では、規制基準が遵守されていることや本件についての用途地域指定の経緯などの事情の十分な説明をする必要があります。

他方で、Yが操業形態、操業の時間帯を変えることや、Xら宅に面したY工場の窓に防音シートを措置することなどによって安価に一定の騒音防止対策をとることができるのであれば(また、将来の対策として、印刷機械の更新時に、低騒音型の機械に入れ替えることができるのであれば)、そのような措置は、Yが今後も同じ場所で操業を続ける上で望ましいといえますし、可能であれば、YがXらにおいて植樹をしたり、窓ガラスを二重サッシに取り替えたりするなどの騒音防止対策をとるのに要する費用の全部又は一部を負担することも考えられてよいと思います。

行政当局として、Yに対して、強い働き掛けをすることが困難であるとしても、Xらの苦情の切実さを伝え、上記のようなY側の譲歩を引き出すような示唆を行うことは許されるでしょう。
そこで、Yが安価になしうる一定の騒音防止対策をした場合の敷地境界における騒音レベルや新たな操業時間等を基準として(あるいは、第一種区域と第三種区域の各規制基準値の間を取って約58dB(65+50÷2≒58)を新たな基準とすることも考えられます。)、当事者間で、生活空間利用の新ルールを定めるべきであり、行政当局にも、そのような新ルール策定に向けての当事者間の話合いの仲介やあっせん(調停的運用)が期待されているといえると考えられます。
事例2のように、規制基準値以下の騒音であっても、苦情者が4名もいるという点(つまり、生活環境に相当の影響が生じているという点)を重くみて、関係者に「スジ」を説き、上記のような双方の協調・互譲による解決に導くことが、社会構成員全体に対する納得・説得という点からも、「スジ」に合致した、「スワリ」のよい解決といえるのではないでしょうか。
ウ 事例3
事例3は、低周波音被害の事例です。

低周波音には、規制基準はもとより、環境基準も存在しない点が問題です。

ここでは、紛争解決の「スジ」として、科学的知見が問題となります。
つまり、測定値(1/3オクターブバンド分析)とISOの感覚閾値(国際標準化機構で定められている低周波音の最小可聴値)や環境省の心身に係る苦情に関する参照値(環境省「低周波音問題対応の手引書」(平成16年6月)で導入された数値で、固定発生源(工場及び事業場、店舗、近隣の住居などに設置された施設等)からある時間連続的に発生する低周波音について苦情が発生した場合、当該苦情が低周波音によるものかどうかを判定するための数値)との対比が重要となります。
ご承知とは思いますが、1/3オクターブバンド周波数分析とは、オクターブバンド(高い方の周波数(f2)が低い方の周波数(f1)の2倍になる(f2/f1=2となる)周波数の範囲(帯域))を3分割した周波数の範囲ごとに、その中心周波数で帯域を代表させ、音の周波数成分の分析を行うことをいいます。

縦軸に、1/3オクターブバンド音圧レベル(dB)を、横軸に、1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)をとって、測定値をグラフにし、そこに、上記の評価値(感覚閾値、心身に係る苦情に関する参照値)をプロットして、他の周波数と比較して極めて大きい音圧レベルを示す、いわゆる卓越周波数の存否をみます。

その上で、心身の被害と低周波音との関連性(因果関係)及び加害行為の態様との相関も考慮して、受忍限度を判断することになります。
ただ、低周波音の測定には、専門の測定器(G特性と言われる1~20Hzの超低周波音の人体感覚を評価するための周波数補正特性で測定可能な低周波音用の騒音計)が必要であり、これがあっても、専門の業者でないと、測定が難しく、専門の業者に委託すると、測定に多額の費用がかかるといった実務上の問題があり、厄介です。

ただ、現在では、県レベルでは、低周波音の測定器を保有しているそうですし、低周波音の測定方法に関するマニュアル(平成12年10月)もありますので、とりあえず、低周波音の測定をしてみることだと思います。当事者の強い意向で、厳密な測定が必要となり、それには、多額の費用を要する場合には、一度、公調委に相談されるとよいと思います。