・3.行政と司法の失敗
未知の病気であるからその実態は不明であったにもかかわらず、症状を皮膚症状に限定して被害を矮小化してしまった。
社会病であるからさまざまな生活障害が派生した。
油症に対する偏見、差別の大部分は未知なるが故のものが多く、そのために患者は油症であることを隠した。子にもそのことを話していないものが多い。進学、就職、結婚、出産などにおける不公正を生んだ。
このような状況は憲法の基本的人権の保障に違反している。
さらに事件の発生責任をカネミ倉庫にすべてを負わせ、作業ミスに矮小化して、製造責任や行政の食品に対する安全性確認責任を放棄した。そのために被害者は未救済のまま放置されてしまった。
しかも、その責任放棄は35年間も続いている。
このような責任放棄は行政の存在理由さえ疑われているだけでなく、国際的にもわが国の行政のあり方が批判されることとなっている。
これは行政の失敗である。
さらに、1987(昭和62)年の最高裁での和解の際に仮払金約27億円の始末をきちんと決着していなかったために、1996(平成8)年に国は各患者に対して仮払金の督促状を送りつけてきた。
そのために、すでに死亡している人の子や孫に請求がきてパニック状態となり自殺者もでるという事態になった。
中には自らが油症であることを知らなかった者、隠して結婚や就職した者などに新しい悲劇が始まった。
毒を食わされたうえに治療法も確立せず、症状に応じた総合的医療的な対策をはじめ社会的・経済的な対応もないまま病苦に苦しむ患者にさらに追い討ちをかけている。
呉秀三(東京大学教授)は明治時代に精神障害者の処遇に対して「この病を得たる不幸に、この国に生まれた不幸を重ねるものなり」と言ったが、まさに現在の油症患者の処遇は「病を得たる上に不幸を重ねている」のである。
まさに歴史に残る司法と行政の失敗である。