・2.医学の失敗
カネミ油症の現在(2001-2003年)はまさに病気のデパート(何でもありという意味で)である。
多彩な自覚症状、皮膚症状と自律神経症状がとくに目立っているが基本的には全身病である。
自覚症状では関節痛、腰痛、肩痛、四肢痛など全身の痛みとめまい・立ちくらみなどが著明で、日常生活に支障が大きい。
私たちは最近、その一部を調査した。
その結果は次のようなものであった。
皮膚症状は一部は軽快したものの依然としてしつこく残存している。色素沈着(軽いものでは歯齦、爪に)、嚢瘍・膿瘍(傷跡も)、座瘡(にきび)、脂肪腫、毛根拡大、白斑、眼脂(目やに)、丘疹、湿疹化、乾皮症、浮腫などがみられたが、当時からすれば皮膚症状は軽快したと言うものが多かった。
対象者の93.7%が過去、現在医療機関で何らかの病名を診断され、治療を受けている。
皮膚科系はもちろん、婦人科系が著明で子宮筋腫(含がん)、卵巣嚢腫、流産、子宮外妊娠、乳がん、乳腺炎、子宮内膜炎、不整出血などで手術したものも多い。
その他肺がん、胃・大腸ポリープ、声帯ポリープ、前立腺がん・肥大、甲状腺腫・がんも多い。
内臓系としては肝障害、胆嚢炎・胆石、胃・十二指腸潰瘍、糖尿病、膵臓炎、腎不全、腎・膀胱結石、気管支炎(気管支喘息)心臓障害(含不整脈)、高血圧、低血圧、貧血、多血症、脳梗塞。その他代謝系障害として痛風、リウマチ、骨そしょう症、高コレステロール血症、白内障がみられた。
自律神経失調症、メニエル病、更年期障害、インポテンツ、神経症、抑うつ症(いずれも入院精神科入院または通院)などが見られた。
1人で複数の疾病を持っているものが多く、最も多く病名を持っていたのは45歳の女性で14の病名と4回の流産だった。
人類初の経験であるからどこの教科書にも載っていない、未知の病気であるにもかかわらず早々と診断基準を作ったことに医学の過ち(失敗)があった。もちろん、初期には皮膚症状が主であったことは間違いないが、それはその時点で明らかになった仮説に過ぎない。
仮説は現実の新しい事実によって変革されなければならなかった。このような多彩な症状があることは予測できなかったはずである。
確かに油症研究班は長期にわたる追跡調査を行い、決して油症が皮膚症状だけなどとは述べていない。
しかし、血液検査を中心のいわゆるEvidence based medicine(客観的データ重視の医学)に偏り、患者の語り(訴え:Narrative)を重視しなかったところに患者の反撥と批判がある。
油症は従来の血液化学的検査では把握できないのが特徴である。したがって、単純な古典的な量・反応関係が成り立たないことは十分に推定できることである。
それでも研究班は血液からいくつかの新しい所見を見いだしているがそれが患者の救済につながっていないところに問題がある。