・ 身の回りに潜む化学物質から引き起こされる健康被害の原因究明は、医師によるパッチテスト、毒性学者によるアレルゲン検索、メーカーによる製品表示、化学研究者による化学物質の特定など、様々な専門家によって分担して進められているそうです。
例えば、ゴム製品による皮膚障害を調査するケースにおいて、化学研究者は、障害をもたらしたゴムの組成を複数のタイプの中から特定することにご尽力されているようです。
というのも、同じゴム製品でも、医療用ゴム手袋に用いられているゴム(ジチオカーバーメート系加硫促進剤、アミン)と、履物に用いられているゴム(メルカプトベンゾチアゾール系加硫促進剤)は化学物質としての基本骨格が異なり、予防法も別個に考える必要があるからです。
お話の中では、この他に広く普及している化学物質として、イソチアノイド系のものやバイオサイドが加工されたものが紹介され、これらを用いるメーカー側に自粛を促しているとの報告がありました。
また、化合物の持つ皮膚感染性の試験方法として、OECDガイドラインにおいて採用されているLLNA法が研究者の間で広く用いられていたようですが、最近では、GPMT法により交叉感作性の確認も行われているようです。
この新しい方法により、プラスチックや塗料に用いられているTCMSPをはじめとするいくつかの抗菌剤は、強いアレルギー性を持つことが判明しており、現在ではメーカーに自主規制を促しているそうです。
このように、化学物質の危険性を判断する新しい方法も登場し、その対策のために様々な関係者が協力して取り組んでいる中で、予防にもっとも大きな効果がある手法は、メーカーが、製品に化学物質の危険性を表示し、消費者に健康被害の予防を呼びかけることなのだそうです。
そのため現在では、MDSDによる化学物質の表示が行われていますが、消費者支援グループを対象にしたアンケート結果によると、一般の消費者はMDSDをほとんど認知していないことが分かっています。
鹿庭さんご自身、MDSDによる表示が健康被害の防止に十分に機能していない現状に、大変ショックを受けたとのことでした。
そもそもMDSDは、製品に使用されている化学物質の情報をメーカーの関係者にのみ伝達するための表示方式で、一般の消費者向けに規定されたのではありません。
一方で、時に“公開せず”として詳細を明らかにしていなかったり、“皮膚感染性あり”という具体性に欠ける表記であったりするため、メーカー関係者の間でも、化学物質に関する十分な情報を伝える表記として機能していない、とのご指摘がありました。
先にあげたアンケートでは、消費者に分かりやすい表示を希望する声が多く、また、鹿庭さんご自身も、次の健康被害防止のために、具体的な過去の健康被害事例を製品に表示していくほうが望ましいと考えていらっしゃるようです。