・3.ヒト胎児の複合曝露への対策と実践
(1)対策:予防医学
ヒト胎児の複合汚染は明らだが、胎児に将来疾患が生じるかどうか、何が原因でどのような機序で発症するか等、未解明な部分は多い。
それでも、未来世代の健康を守るためには、戦略的・予防的に、対策を講じる必要がある。
ここで重要なのが、①リスクの問題を知り(認知)、②自己の状態に関心を持ち(関心)、③行動に移す(行動・対応)という予防医学に基づく対策である。
(2)実践:次世代環境健康学プロジェクト
ヒト胎児の複合曝露対策の実践として、森先生は、予防医学に基づき、2003年、次世代環境健康学プロジェクトという大学発NPOを立案された。
①認知
化学物質の人体への影響を防ぐには、まず、化学物質が人体にどのように影響するかといった情報を、一般市民が知ることから始まる。
そこで、次世代環境健康学プロジェクトでは、化学物質に関する情報を正確にわかりやすく伝達するトランスレーターを養成し、資格を付与している。
資格を得たトランスレーターは、一般市民に集団教育を行っている。
②関心
次に、化学物質の健康診断を行い、自分がどのくらい汚染されているのかを知る必要があり、次世代環境健康学プロジェクトでも、化学物質の健康診断を実施している。
また、体内濃度測定法の確立や疫学調査、化学物質の複合曝露の影響のメカニズム解明等の研究も行っている。
③行動・対応
健康診断の結果、汚染濃度が高い人には、生活習慣の改善で体内濃度を下げるためのアドバイスや、投薬による濃度低減治療を行う。未来世代を化学物質から守るためには、特に、生殖世代にある若い世代に対して、適切な対策をとることが重要である。
例えば、母乳には母体血よりも高濃度のPCBが移行するので、母親のPCB濃度が高い場合、子どもを母乳で育てる場合と人工乳で育てる場合とのリスク情報を提供している。