・へその緒が語る体内汚染 ―未来世代を守るために―
講師:森 千里氏
(千葉大学大学院教授・医学博士・国民会議副代表)
1.化学物質と疾患の関係
1980年代後半から、私たちの生活の中の化学物質は急激に増加している。かつて日本では、高濃度の化学物質曝露による公害が社会問題となったが、近年では中・低濃度の化学物質曝露による環境ホルモンやシックハウス症候群、化学物質過敏症が大きな問題となっている。
一般的に疾患の原因には、遺伝要因と環境要因があるが、これらの疾患の原因は、環境要因だといえる。
10数年来で遺伝要因が変化するとは考えられないからである。
そして、これらの疾患については、環境要因のうち化学的要因が大きく寄与していると指摘されている。環境要因による健康障害には予防医学の考えが重要であり、特に、未来世代を守るためには、化学物質の影響を強く受けやすい胎児を基準にした対策が必要である。
2.ヒト胎児の複合汚染
では、胎児の化学物質曝露状況はどうなっているのだろうか。
へその緒(臍帯)には、ダイオキシン、PCB類、DDE等の残留性化学物質や水銀がほぼ100%の確立で含まれている。
これらの物質は、臍帯を通じて胎児に移行し、胎児の体内に蓄積されている。PCBを例にとると、母親が高齢であるほど母体内にPCBを多く蓄積しているため、第一子出産年齢が高くなるのにつれて、臍帯中のPCB濃度も高くなっている。
また、第一子、第二子、第三子の順に臍帯中のPCB濃度が低下傾向にあるが、これは、出産の度に母体のPCBが胎児に移行し、母体のPCB濃度が低下していることを示している。
臍帯中の化学物質濃度は、最大で10倍近くの個人差がある。
平均すれば低濃度であっても、高濃度の集団(ハイリスク・グループ)には何らかの対応が必要だ。
また、胎児期の環境は、身体の発達に重大な影響を持つとされており、胎児期はライフステージにおいて最もリスクが高い段階(ハイリスク・ライフステージ)にある。
よって、胎児の化学物質曝露を可及的に低減することが重要といえる。