・ 以上のように人の健康の悪影響として、疫学的にコンセンサスに到達するには大きな困難がある。新たなバイオマーカーの開発のような新しいアプローチも必要となろう。
また、複合影響をどう捉えるかのような暴露量評価の新しい手法も必要である。
環境ホルモン問題は、生殖の問題として社会的にブレークした感があるが、現在ではより広い作用点からの評価が求められている。
この中には脳神経系の発達の遅れ、免疫系の異常があり、また最近の話題では、肥満や糖尿病との係わりである。
例えばダイオキシン汚染と糖尿病との係わりについて疫学的な研究発表がDioxin2006でなされた。
生活習慣病と言われる現代病が、化学物質のホルモン作用と係わりがあるとすれば、興味深い研究であると言える。
内分泌かく乱物質については、各国とも、研究開発を中心として対応しており規制のような形での踏み込みにはなっていない状況にある。環境ホルモン問題の出発点となったPOPs(残留性有機汚染物質)については、これが国際条約として発効したこともあり、確実に対策が進められている。
各国において発生量、環境汚染レベルについての情報の収集が進められており、次いでその発生予防や消滅が図られる方向にある。
内分泌かく乱物質のリスク評価と予防原則
環境ホルモン問題として提起された課題は、もしそれが事実であるとすれば極めて重要な内容である。
が、化学物質との因果関係は十分な証拠が蓄積しているとは言えないケースが少なくない。
微量の内分泌かく乱物質により、遺伝子の発現が認められるが、生体というシステムにおいてそれがどのような悪影響と結びつくのか、まだわからない。
必ずしも十分でない科学的知見を基礎として、悪影響の未然防止に向けて対策を設計することが出来るであろうか。
そして予防原則は、どの程度の証拠があれば、発動が可能なのであろうか。またこのことは、私達の社会を動かしている経済活動とも関連してくる。化学品を生産・販売している化学業界があり、その立場からは“根拠のない”環境ホルモン呼ばわりは営業妨害に映るかも知れない。
その一方で、警告型の研究の発展とその自由な発表なしには、国民の健康と野生生物の環境は十分に守りきれない。
好ましいのは、より安全な化学品に向けて、生産者と消費者が連携して製品開発や用途開発を行なうことであろう。簡単には進まないかも知れないが。
当面のアプローチは、科学的知見の拡充とリスク概念の共有化であるかも知れない。
この点で、発ガン物質対策に学ぶことは多い。環境ホルモン問題は問題提起からほぼ10年経つが、政策の中に取り込まれるには更に10年を要しよう。
簡易な試験法やそれを用いたデータの蓄積は進みつつある。定量的なリスク評価の手法の確立が急がれる。