・内分泌かく乱化学物質問題の浮上と展開
“Our stolen Future”(和訳:『奪われし未来』)及びその後のメディアの“環境ホルモン問題”の高揚した取り上げにより、環境ホルモンは一気に社会事象となった。
一方、WHO(世界保健機構)はGlobal Assessmentの中で科学現状の分析を試みている。2002年に現在の科学における内分泌かく乱の地球的評価(Global Assessment of the State-of-the-Science of Environmental Disrupters)を公表しており、その時点で、危惧される影響に対して科学的知見が十分にあるケースや科学的知見が不十分なケースを分離し、整理することを試みている。
この中で、例えば有機スズによる巻貝のオス化は、最も証拠が揃った例として述べられおり、また一方でDDTによる乳がんの発生増は証拠の不十分なケースとされている。
2004年には日本で、WHOとのJoint Workshopが開催され、続編がWHOのホームページから入手可能である。
一例として環境ホルモンと生殖系への影響についての研究現状
①精子数減少を始めとする精巣機能低下を示す、多数の論文が存在している。が、どの現象が真実であり、どの程度の減少が妊よう率に影響するかは、現時点では結論できないとされる。
例えば、欧米での22報の研究報告のうち8報が減少、5報が増加、日本での研究例では、精子数減少を示す論文が存在する一方で増加を示す発表もある。一方、環境ホルモンのような化学物質が精巣機能不全を引き起こすことがあることも一つの真実である。
例えば、農薬クロルデコン、DBCP、ブロモプロバン、PCB等は職業暴露により人の精子数の減少数や無精子症を引き起こしている。
②生殖器ガンは近年著しく増加してきている。
女性生殖器ガン(乳ガン、子宮体ガン、卵巣ガン)及び男性生殖器ガン(前立腺ガン、精巣ガン)のいずれも急速に増加してきている。
原因の一つとして環境ホルモンが疑われるが、明確な証明は得られていない。乳ガンとDDE及びPCBについて関連の可能性が指摘されたものの、全体的な判断としてはやや否定的である。
③性比の変化(男性が少なくなる)は、カナダ、米国、オランダ、デンマーク、スウェーデン、独、ノルウェー、フィンランド、ラテンアメリカ諸国で報告された。逆に男性の増加傾向がイタリア、ギリシャ、オランダで報告されている。
環境ホルモンとの関係が示されているケースとしてイタリアのセベソでのダイオキシン汚染がある。汚染直後に男性の比率が低下し、その後回復が観察されている。
一般人口集団でのこのような傾向がどのような意味を持つか、環境ホルモンとの関係を明らかにすることは容易ではない。
④尿道下裂及び停留精巣は近年少しずつ増加してきている。
女性ホルモン様物質(あるいは抗アンドロゲン作用物質)により引き起こされる可能性があるものと推定されるが、その関連性に関する研究の蓄積は乏しいのが現状である。