・治療 [編集]
最初に非ステロイド性消炎鎮痛剤 (NSAIDs) が処方されることが多い。筋肉・靭帯・関節の炎症と鑑別が困難な為である。
ただしこれまで安定した効果を持つ特効鎮痛剤は見つかっておらず、NSAIDsにて治癒軽快した例はきわめて少ない。
三環系抗うつ薬アミトリプチリンなどが古くから有効とされている。またメタアナリシスでも最も有効であった。
[2]抗不安薬(フェノチアジン系、ブチロフェノン系、ベンズアミド系、ベンゾジアゼピン系)を補助的に使う場合も多い。
SSRI・SNRI(フルボキサミン、パロキセチン、ミルナシプラン、ヴェンラファキシンなど)による治療の報告も増えている。神経や精神状態の改善が症状を改善させるという臨床例が多く認められている。
抗痙攣薬[3]やドーパミン受容体刺激薬などが有効な症例もある。
ノイロトロピンという特殊な作用機序を持つ下行性疼痛抑制系賦活型疼痛治療剤が長期間慢性的につづく疼痛に対しては有効とされている。
ノイロトロピンを定期的に静脈注射するなどの療法も行われているが、線維筋痛症の痛みは個々人によって症状が異なるため、線維筋痛症に詳しく、これらの薬剤に熟知した専門医による処方が望まれる。
2007年米食品医薬品局(FDA)は米国ファイザー社リリカ®(一般名:プレガバリンPregabalin)を初の線維筋痛症治療薬として承認した。
プレガバリンは過剰興奮したニューロンを沈静化させる作用があるとされる。日本では帯状疱疹後神経痛に承認されていたが、線維筋痛症には処方できない状況であった。
2010年10月27日適応変更が行われ、線維筋痛症を含む「末梢性神経障害性疼痛」に投与可能となった。副作用は眠気、しびれ、目まい、浮腫、および脱力など。
2007年12月31日、Forest Laboratories社とCypress Bioscience社は、線維筋痛症治療薬として開発しているデュアル(ノルアドレナリン/セロトニン)再取り込み阻害剤・ミルナシプラン(milnacipran、日本ではトレドミンとして発売)をアメリカFDAに承認申請したと発表。
2009年1月にFDAはSavella(milnacipran HCl)=SNRIを線維筋痛症治療薬として承認した。ただし2009年7月時点欧州EMEAの諮問委員会CHMPは線維筋痛症候群治療薬候補として承認すべきではないとの見解。
FDAは2008年6月に商品名シンバルタ Cymbalta(duloxetine HCl)イーライリリー/シオノギ製薬販売のSNRI(選択的セロトニンとノルアドレナリン再取り込み阻害薬)を承認。
プレガバリンと作用が似ている抗てんかん薬のガバペンもしばしば用いられる。
これまで、患者が痛みを訴えてもそれを具体的に伝えることは困難だったが、2007年に株式会社ニプロが「ペインビジョン(PainVision)」という電流知覚閾値検査装置を発売した。
これは、痛みに似た感覚を作り出すことができる電気刺激を患者に与えることによって、患者の痛みを数値化し、グラフとして提供する装置である。
これによって、これまで医師に伝えることが難しかった痛みの度合いが数値化・視覚化されることにより、患者が感じる痛みの量を患者と医師が共有したり、それによって患者の心理的負担が軽くなることなどが期待される。
塩酸トラマドールまたはトラマドール塩酸塩tramadol hydrochlorideは、オピオイドの作用と三環系抗うつ薬の作用を併せ持った鎮痛薬で、世界100カ国以上で広く販売されている。
米国ではFDAが2008年12月31日に承認して以来FMSに使用されている。日本では商品名トラマールを日本新薬が非経口投与薬(注射)として製造、販売、ガン性疼痛に用いられる。
膠原病患者の場合は治療の一環としてメトトレキサートを中心に、インフリキシマブやエタネルセプトなどの抗TNF-α療法を行う事により疼痛を軽減できる可能性がある。
局所麻酔薬による神経ブロック療法は一時的に局部の疼痛を軽減することができる。
救急の場合医師の厳重な監督の下、モルヒネなどの医療用麻薬製剤、ペンタゾシン pentazocine(ソセゴン/ペンタジン/ペルタゾン)などの麻薬拮抗性鎮痛薬の投与を行う事も稀に有る。
日本の上場バイオベンチャーであるそーせいにより線維筋痛症候群の経口治療薬開発品AD337が開発中である。2008年後期第Ⅱ相臨床試験へ移行。順調に進んでいる。337の後続開発品としてSD726は、非臨床試験を終了し臨床試験へ移行できる状況でSD726は古典的医薬品化学の方法で337と異なる薬理学的特性を有する化合物として探索され、非臨床試験において線維筋痛症候群ならびに神経因性疼痛への適応の可能性が示唆されている。2008年欧州において特許が成立している。
2008年3月10日、神経・線維性疾患の治療薬を開発しているPipex Pharmaceuticals社は、リウマチ様の痛み疾患・線維筋痛症を対象にした経口flupirtineアミノピリジンのプラセボ対照二重盲検第2相試験のIND申請がアメリカFDAに受理されたと発表した。
2009年12月15日、Jazz Pharmaceuticals社は、線維筋痛症治療薬としてナルコレプシー治療などに使われる麻酔薬の一種ナトリウムオキシベート経口液剤JZP-6 (sodium oxybate oral solution) をアメリカFDA(米国食品医薬品局)に承認申請。 2010年2月アメリカFDAに受理された。
2010年これまでの慢性疼痛治療はニューロンの活動のみを抑制させる事に集中してきた。
しかしグリア細胞が炎症性サイトカインや増感因子を放出して神経細胞を刺激し続ける限り、ニューロンの興奮を充分には抑えられない事が判明している。神経性疼痛障害はグリア細胞へのブレーキも不可欠である。
現在慢性疼痛の分野では、グリアそのものを沈静化する方法、グリア細胞が出す炎症の引き金となる分子やシグナルをブロックする方法、炎症を抑える信号を送る方法などが模索されている。
グリア細胞にアプローチした生物学的製剤による分子標的治療→AV411=アストロサイト(神経損傷後にできるグリア細胞の塊)の活動を阻害。モルヒネの効果増強及び禁断症状緩和として臨床試験中
。鎮痛剤としては安全試験終了、既に市販されている・エタネルセプト=商品名エンブレル抗炎症信号の伝達によりグリアを沈静化。手術後の神経障害性疼痛の緩和を目的に臨床試験中。
別の目的にて既に市販・アナキンラ・ペントキシフィリン・インターロイキン(サイトカイン)=抗炎症信号の伝達によりグリアを沈静化。疼痛の緩和を目的に細胞試験、動物実験中。別の目的にて既に市販・JWH-015=痛みを和らげるCB2カンナビノイド受容体を活性化。疼痛の緩和を目的に細胞試験、動物実験中・メチオニンスルホキシミン=アストロサイトの神経伝達物質分泌阻害。疼痛の緩和を目的に細胞試験、動物実験中・ミノサイクリン=ミクログリアの活性化阻害。疼痛の緩和を目的に細胞試験、動物実験中・プロペントフィリン=アデノシンの再取り込みの阻害剤アストロサイトの活動阻害。鎮痛剤としての安全試験終了・サティベックス=カンナビノイド系がん疼痛治療剤。
カンナビノイド受容体を活性化。ガンやエイズに伴う神経障害性疼痛、糖尿病性神経障害への有効性を調べる臨床試験中。
大塚製薬GWファーマシューティカルズが米国にて特許取得。・SLC022=アストロサイトの活動阻害。帯状疱疹後神経痛への有効性を調べる臨床試験中。※生物学的製剤とは、最新のバイオテクノロジー技術を駆使して開発された薬で分子標的治療に用いる。
生物が産生した蛋白質を利用して作られる。特に関節リウマチの炎症や痛み・腫れ、骨や軟骨などの関節破壊を引き起こす原因となる物質を抑えることにより、その効果を発揮するとされ、日本でも膠原病に認可されている。欧米では既に生物学的製剤と医療用麻薬製剤を組み合わせた治験が済んでおり、その飛躍的な鎮痛効果により様々な成果を挙げている。
しかし日本ではFMS及び神経障害性疼痛に上記の生物学的製剤と医療用麻薬製剤の併用は認可されておらず、その他の鎮痛剤や抗うつ剤との併用も未治験である。
2010年6月武田薬品工業は、慢性関節炎などに伴う痛みを改善する抗体医薬品AMG403の国内開発を発表。
同様に疼痛を引き起こす伝達物質の受容体やイオンチャネルの発現を調節する、神経成長因子NFG阻害ヒト型モノクローナル抗体として、米ファイザーがタネズマブ(tanezumab)を開発。しかしタネズマブは2010年6月25日、関節炎患者への疼痛管理薬候補としての臨床試験中止。又7月19日には慢性腰痛と痛みを伴う糖尿病性末梢神経障害を適応とした試験中止。
注意すべき点として、FMS患者の薬物耐性は脱感作タキフィラキシーの速度が健常人よりも速い。
薬物による治療だけでなく、認知療法、カイロプラクティックや鍼灸、腹式呼吸などの呼吸法や瞑想、ウォーキクング・ヨガやストレッチ・エアロビクス・水泳などの軽い運動、健康的な睡眠の確保といった、ストレスを緩和させる手法も有効ではないかと考えられている。
ただし本人の希望無しに無理やり運動させると悪化したり、中~重症患者には本人の希望する軽いストレッチなど以外は、激しい運動は逆効果ではないかとの声もある。
肉体的精神的ストレス、環境の急激な変化、人間関係のストレス、激しい労度など神経細胞を刺激し、病状を悪化させる可能性のあるものは極力避けた方がよい。
続発性線維筋痛症は先行する原疾患のコントロール及び、他種の自己免疫性疾患の治療と同様の治療方法が望まれる。
ただし自己免疫性疾患が治癒又は寛解しても痛みが継続する場合もあり、必ずしも原疾患が原因とは限らない。
(例えば事故の外傷が完治したり、膠原病の数値が安定しても、痛みが継続する場合がしばしばある。ただしきっかけとなった病気を治すことで痛みが弱まる可能性は高い)
現在受け入れ可能なリウマチ科、心療内科、内科と精神科、又はFMSの診断可能な専門医と連携して治療することが必要である。
しかし手術や外傷、膠原病、激痛を伴う多発性硬化症、脳梗塞などの脳血管障害、精神的ストレスなどあらゆる痛みが引き金となる事を考慮した場合、全ての科がFMSや神経障害性疼痛、二次的慢性疼痛のケアついてある程度の知識を持つ事が望ましい。
又整形外科、リウマチ科などの医療側の取るべき立場として、赤沈、CRPなどに異常所見がなく他覚所見に乏しいからという理由で心療内科、あるいは精神科に安易なコンサルテーションを行うことは慎むべきである。
現在日本では専門の科を設けるか、それぞれの各科がケアしていくか方針は決まっていない。