・3.1.2 高周波電磁界
1) はじめに
1907年のド・フォレストによる3極真空管(オーディオン)の発明によって強力な電波を発生させることできるようになった。
医学者がこのエネルギーに着目し、人体のさまざまな部位に強い電波を照射して治療効果を得ようとする試みがなされた。
このジアテルミー療法の副作用による事故の報告により、過度の高周波曝露が健康に悪影響を与えることを明らかになった。このようにして高周波電磁界の生体影響が最初に認識されたのは1930年代である。
1960年頃からは軍用のマイクロ波利用の安全性を確立する必要があったため米軍の研究機関を中心に多くの研究がおこなわれた。
このころから、多くの研究が行われてきた。当時から、弱い電磁界による非熱作用の可能性も論じられていた。
このように高周波電磁界の生体影響に関する研究の歴史は長く、蓄積された知識は?なくない。
高周波電磁界による生体影響の知識は、その後、電磁界と人体のインタラクションについての研究の進歩とともに精密化されながら確立されてきた。
電磁界の生体作用には、不明な点が強調されることがあるが、多数の解析や実験結果は、少なくとも短期的な(数日程度までの)作用としては、熱作用を考えればよいことを示している。
またそれ以上長時間の作用についても、これまでの研究によれば、別の現象が著しく現れることないと考えられている。
1970年代以降の重要な進歩は、電磁界と人体のインタラクションを定量的に調べる「電磁界ドシメトリ」と呼ばれる分野の研究である。電磁界ドシメトリによって生体が電磁界に曝露されたときの条件を定量的に把握することが、実験の精度と再現性を高めた。
近年の携帯電話の爆発的な普及により、高周波電磁界の健康影響に対する関心が非常に高まった。
現在、携帯電話の高周波電磁界による健康影響の可能性について、多くの研究が進められている。
過年度の報告では、携帯電話による健康影響、中間周波とミリ波の影響についての研究動向が報告された。
本報告では、再び携帯電話に関する高周波の生体影響の研究について、最近の動向を中心に報告する。
ここで注目しなければならないのは、携帯電話や放送波による健康影響を示唆する研究は、それを否定する研究に比べてはるかに少なく、また報告されている影響を示唆する現象の追試・再現を試みた多くの研究が再現しないことを示しているにもかかわらず、携帯電話の健康影響についての結論が明らかになるよりむしろいっそう混乱している場合が?なくないことである。
このような論争の対象になっている問題を中心にここでは報告する。