・マラリア対策に、
農薬入り蚊帳普及の問題点と提案
元国際基督教大学教授 田坂 興亜
ユニセフの呼びかけで行われている「アフリカの子どもたちを、マラリアから救おう!」という運動に、日本政府が蚊帳を提供して協力していると聞けば、誰しも「それはすばらしい国際協力ではないか!」と賛成するに違いない。
ところが、その蚊帳が普通の蚊帳ではなく、ピレスロイド系の合成殺虫剤ペルメトリンを練りこんだ蚊帳であって、「普通の蚊帳より穴が大きくしてあり、蚊が入ってくるときに必ず蚊帳にいったんとまるため、蚊帳の繊維に触れた蚊の体内に殺虫剤が侵入して、蚊を殺すのです」という住友化学の社長による説明を聞くと、「何故殺虫剤入りの蚊帳なのか?」という素朴な疑問が沸いて来る。
この説明は、この蚊帳のお披露目のときにユニセフ連盟日本支部で行われたもので、2006年に住友化学の研究者による報告があり、新聞の記事にも、「穴が大きくしてある」ことが紹介されている(産経新聞2007年12月7日)。
ところが最近、ペルメトリンに対して耐性を持った蚊がカメルーン、モザンビーク(2006年)、ベニン(2007年)、ウガンダ、ケニア、ガボン、赤道ギニア、ニジェール(2008年)と年々急速に増加して現れていることが報告されており(1)、穴を大きくしたことが裏目になって、蚊帳の中にいても蚊に刺されてマラリアになる可能性が増大したことを意味する。
ペルメトリンを製造、販売している住友化学は、「ピレスロイド系のペルメトリンは人畜無害」と主張する一方で、展示された蚊帳には英語で「蚊帳に触ったら、食べる前に手を洗うこと!」という注意書きがしてあることを見れば、物理的に人を蚊から守る蚊帳がなぜ農薬入りなのか?という疑問が膨らむ。
蚊帳の中に寝ている子どもや妊婦が、蚊帳に触ったからと言って、飲食の前に手を洗うことなどアフリカでは非現実的であることは明らかであろう。