・農薬企業天国のアメリカ―イミダクロプリドの例外的扱い―
一方、米国では、ミツバチ大量死問題への対応はフランスとは全く異なった展開を見せている。
2006年時点で、ミツバチ大量失踪(蜂群崩壊症候群:CCD)の広がりは全米の4分の1以上の養蜂家に及び、2007年冬から翌春までの冬季死亡率は36%に上った。
養蜂家やジャーナリストらが農薬の危険性を訴えているにも関わらず、なかなかネオニコチノイド系農薬の規制が進まない中で、国内最大の自然保護団体
であるシエラ・クラブ(Sierra Club)が、この農薬の禁止を求めて活動している。
2008年にサイエンスライターによって著された『ミツバチのいない春』(A Spring without Bees by M.Schacher)は、CCDがいかに米国の将来の食糧問題を脅かす恐れがあるかを警告し、それと同時に、その状況をさらに悪化させているのが、農薬企業との癒着構造で身動きとれない政府の事情であることを示している。
この本によれば、2006年における農薬多国籍企業のバイエル社などによる議会議員や政治団体への献金は5000万ドルにも上ったが、同年の化学工業会絡みの献金はその約8分の1以下の600万ドルに過ぎなかった。
また、議会報告によれば、農薬企業からの献金はロビー活動のためだけでなく、毎年、大学や研究所などにも及んでいる。
このような農薬企業の影は、ネオニコチノイド系農薬の代表格であるイミダクロプリドに対する政府の規制のあり方にも及んでいる。
1985年、農薬多国籍企業のひとつであるバイエル社がイミダクロプリドを開発した。
開発当初、この農薬は、昆虫の神経伝達をブロックするが人間にはほとんど悪影響がないと企業は説明し、その低毒性を旗印にこの農薬の使用を国中に広げようとした。
それに一役買ったのがブッシュ政権下の環境保護庁(EPA)だ。EPAは05年、イミダクロプリドについては特別に食品や農作物の許可に必要な通常の環境試験が不必要であるという判断を下し、連邦登録局は例外的にイミダクロプリドに緊急認可( EmergencyAuthorization)を与えた。
一部の毒性試験を免除されたかたちでの使用、販売が保証されたのだ。
このイミダクロプリドへの特別扱いによって、始めは限定的にしか使用されていなかったイミダクロプリドが、次々と多くの農作物に許可され、各州に広がっていった。
フランスの研究者は、この政権下における農薬の規制緩和の動きによって、数年以内に米国のミツバチにはさらに甚大な被害を受けるであろうと指摘したという。