wikipediaより
治療 [編集]
薬物治療 [編集]
気管支喘息治療薬は「長期管理薬」(コントローラー)と「発作治療薬」(リリーバー)に大別される。
発作が起きないように予防的に長期管理薬を使用し、急性発作が起きた時に発作治療薬で発作を止める。発作治療薬を使う頻度が多いほど喘息の状態は悪いと考えられ、長期管理薬をいかに用いて発作治療薬の使用量を抑えるかということが治療の一つの目標となる。
長期管理薬では吸入ステロイド薬が最も重要な基本薬剤であり、これにより気管支喘息の本体である気道の炎症を抑えることが気管支喘息治療の根幹である。
重症度に応じて吸入ステロイドの増量、経口ステロイド、長時間作動型β2刺激薬(吸入薬・貼り薬)、抗アレルギー薬、抗コリン剤などを併用する。
長期管理薬を使用しても発作が起こった場合は、発作治療薬を使用する。
発作治療薬には短時間作動型β2刺激薬、ステロイド剤の点滴などが使われる。
1997年、β2刺激薬であるベロテックエロゾル(臭化水素酸フェノテロール)の乱用による死亡者増加が日本において大きな問題となった。
これはβ2刺激薬の副作用によるものとは言えず、β2刺激薬の吸入により一時的に症状が改善するために大発作に至る発作でも病院の受診が遅れたことが主因と考えられている。
抗炎症薬 [編集]
経口ステロイド薬
1950年代にコルチコステロイドが精製されるとすぐに喘息の治療に用いられた経歴がある。
気管支拡張薬で反応しなかった重度の喘息でも極めて有効であったが、長期にわたって全身投与を行うと多くの有害な副作用が出現するため、現在は緊急時の短期間投与のみが行われる。
例外としてはステロイド依存性喘息であり、やむをえず、長期ステロイド全身投与を行う。
民間療法でステロイドの有害性を過度に強調する情報があるが、これらは吸入ステロイドをはじめとする現在の治療ができる以前の報告である。
吸入ステロイド薬(ICS)
現在ガイドラインでも推奨されている第一選択薬のひとつ。
強力な抗炎症作用を持ち、コントローラーとして用いられるものが多い。
起こってしまった発作を改善させる作用は期待できない。(シムビコート®を除く(このような使用はしないように注意喚起されている(添付文書)))
吸入ステロイドとしてはバイオアベイラビリティ(吸収されて血流中に残り、全身に分布する量)が低い薬剤が用いられるため、全身性の副作用(高血圧、肥満、骨粗しょう症、身長の伸びの抑制など)は殆どないと考えられている。
薬物量においても全身投与ではmg単位必要であるのに対して吸入ではμg単位で治療が可能である。
吸入薬としての副作用としては嗄声、口腔内カンジダなどが起こりえる。
吸入薬とはいえ、フルチカゾンで1000μg/dayを超える高用量では全身性の副作用が出現することがある[要出典] 。
しかし通常の使用法ではまず考えられない。
吸入後はうがいをして口腔内から薬剤を洗い流すか吸入を食前に行い、食事によって口腔内のステロイドを洗い流すことでこれらの副作用のリスクを減らすことができる。ICSを低用量から高用量へ増量するよりも低用量ICSにLABAやLTRAを併用した方がコントロールが良くなる傾向がある。このような報告や吸入薬は全身影響が少ないこともあり、合剤が販売されるようになっている。合剤の代表がアドエア®、シムビコート®である。
ICS商品名 物質名 低用量 中用量 高用量 特記事項
パルミコート ブデソニド 200~400μg 400~800μg 800~1600μg 妊娠中の使用の安全性が高い。
フルタイド フルチカゾン 100~200μg 200~400μg 400~800μg 喘息治療などでは一番使われているステロイド。
キュバール ベクロメタゾン 100~200μg 200~400μg 400~800μg 古典的なICS。溶剤にアルコールを使用している。
オルベスコ シクレソニド 100~200μg 200~400μg 400~800μg プロドラッグ。一日一回吸入で良い。
アドエア フルチカゾン 100~200μg 200~500μg 500~1000μg フルタイドにセレベント(LABA)を加えた合剤。
シムビコート ブデソニド 200~400μg 400~800μg 800~1600μg ブデソニドとホルモテロール(LABA)の合剤。2010年1月日本上市
吸入器には定量噴露吸入器(pMDI)と自己の吸気にドライパウダー吸入器(DPI)が存在する。
フルタイドディスカス・ロタディスク、パルミコート・タービュヘイラー、シムビコート®・タービュヘイラー®、タウナス(製造中止)といったドライパウダー製剤、キュバール(ベクロメタゾン)、オルベスコ(シクレソニド)、フルタイド・エアーといったガス噴霧製剤(エアロゾル)がある。
またドライパウダー製剤・ガス噴霧製剤などが上手に吸入できない小児などのために、デポ・メドロール(酢酸メチルプレドニゾロン)、パルミコートにはネブライザーで吸入できる吸入液がある。
ガイドラインに基づく治療をしている場合はLABAと併用を行う場合が多いため、セレベントとの合剤であるアドエアなどは携帯する薬品、吸入回数が減ることで利便性が高い。
吸入器には定量噴露吸入器(pMDI)と自己の吸気にドライパウダー吸入器(DPI)が存在する。例えばフルタイドの場合はpMDIならばフルタイドエアー、DPIならばフルタイドディスカスである。
肥満細胞脱顆粒抑制薬
クロモグリク酸吸入液(DSCG、商品名インタール等)は肥満細胞の脱顆粒を抑制する薬である。
直前に1回吸入するだけで運動や抗原吸入によって引き起こされる気管支収縮を軽減できる。
しかし、その効果は吸入ステロイドに劣り、また発作の治療に用いることもできない。
非アトピー性が多い成人の喘息では用いる機会はかなり少ないものの、アトピー性が多い小児喘息では比較的効果があり有害な副作用がないということもあり小児科では非常に好まれる薬物である。クロモグリク酸吸入液は(20mg/2ml)で1回1Aで一日3回~4回、電動式ネブライザーを用いて治療を行う。
抗ロイコトリエン薬(LTRA)
代表的な経口喘息治療薬。軽症や吸入ステロイド薬の使用が困難である症例においては単独で使用されることが多い。
中等症~重症では一般的には吸入ステロイド薬の併用薬として使用される。リモデリング予防・改善効果、運動誘発性喘息、アスピリン喘息、鼻閉を伴うアレルギー性鼻炎や月経困難症及び子宮内膜症の合併では特に使用を推奨されている。
代表的なLTRAには、ブランルカスト(商品名オノン®など)、モンテルカスト(商品名シングレア®など)がある。
効果発現は薬剤によってことなるが、プランルカストでは2週間、モンテルカストでは1日で自覚症状が改善するというデータがある。
アトピー性が多い小児では好まれる。プランルカストは小児の場合は1歳以上に適応があり、カプセル(112.5mg)とドライシロップ(10%)の製剤が知られており7mg/Kg/dayで最大量は450mg/dayである。朝夕に分服する。モンテルカストはチュアブル錠(5mg)が6歳以上15歳未満、細粒(4mg)が1歳以上6歳未満の適応があり、1日1回1錠を就寝前に投与される。特に小児ではJPGL2008ですべてのステップで第一に推奨されている薬剤である。
ただしロイコトリエンが関与しない喘息もあり、約60%の患者に効果がみられる。
抗アレルギー薬
スプラタミド、ケタス®などといった化学伝達物質阻害剤、ケトチフェン、アゼラスチンといった抗ヒスタミン剤なども処方されることがある。one airway one diseaseという考え方が提唱されており、喘息とアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎を同時に治療すると効果的と考えられている。
免疫抑制薬
気管支拡張薬 [編集]
β2刺激薬
吸入薬は短時間型(SABA)は発作時にリリーバーとして用いられ、長時間型(LABA)はコントローラーとして用いられる。
長時間作用型気管支拡張薬は反復使用をすると気管支拡張作用は減少しないものの、喘息誘発刺激に先立って投与することで得られる、気管支収縮の予防効果は急速に損なわれる。
しかし短時間作用薬物の急速なリリーバー作用は阻害されないという非常に興味深い現象が知られている[要出典]。
これらは気管支リモデリングからの説明が試みられている。吸入ステロイドを併用することで、このような現象も予防することができるため、LABAはICSと併用をするべきと考えられている。
COPDの場合はSABAは抗コリン薬よりも即効性があるとされているが最大効果は劣る傾向にある。
短時間型吸入薬(SABA)
サルブタモール(サルタノール・インヘラーやベネトリンなど)、プロカテロール(メプチン・エアー®など)、フェノテロール(ベロテック・エロゾルなど)など。
即効性はあるものの、効果はすぐに減弱するため、コントローラーとしては用いられない。ホルモテロールは発作時にSABA同様の即効性があるが、下記の長時間型吸入薬である。
長時間型吸入薬(LABA)
サルメテロール(セレベント®・ディスカスなど)、サルメテロール・フルチカゾン(ステロイドとの合剤、アドエアー®など)、ホルモテロール・ブテソニド(シムビコート®)などがある。セレベントは一回25~50μgを一日二回投与が一般的である。アドエアーでは一回にサルメテロールが50μg含まれている。かつてはβ刺激薬の心臓作用が気管支喘息患者の突然死の原因と考えられていたが、ICSの普及によってむしろ炎症コントロールの程度が突然死とかかわりあっていると考えられるようになった。
貼付剤、内服薬などの剤形もあり、年齢・症状にあわせてそれぞれ用いられる。
貼付剤としては小児科領域ではツロブテロール製剤のホクナリン®テープがよく用いられる。
0.5~3歳未満ならば0.5mg、3~9歳未満ならば1mg、9歳以上ならば2mgで胸部や背部や上腕部に貼付する。
副作用は内服薬と同様で吸入薬よりは強い。
また、効果発現時間は極めて遅いため急性期の対応では全く役に立たないが、服薬が難しい小児の分野では使い勝手の良さから非常に好まれる。内服薬ではアトック®(ホルモテロール)やホクナリン®錠、メプチン®錠など多くの製剤がある。
メチルキサンチン系薬物
テオフィリン(テオロング、テオドール他)製剤である。テオフィリンは気管支拡張作用と抗炎症作用を併せ持つ。
かつては気管支喘息の中心となる薬物であった。
錠剤やカプセルの形態で徐放性製剤として経口投与を行い、急性増悪ではテオフィリン及びそのジエチルアミン塩であるアミノフィリンの静脈内投与を行うことができる。β刺激薬がアデニル酸シクラーゼを活性化させcAMPを上昇させるのに対して、テオフィリンはホスホジエステラーゼを阻害することでcAMPを上昇させる、結果はどちらもPKA活性化による気管支の拡張である。
また、気管支喘息とCOPDに対してヒストン脱アセチル化酵素活性の増強作用による抗炎症作用や横隔膜の収縮力増強や呼吸中枢刺激作用も報告されている。
徐放性テオフィリン製剤は喘息症状の改善の他、肺機能の改善、就寝前の内服で夜間症状の改善、運動誘発性喘息の予防、低濃度での抗炎症作用が知られている。
しかし治療域は非常に狭く、代謝に個人差があるため投与量の設定も個人ごとに異なり5~15μg/mlに血中モニタリングが必要である。また多くの薬物との相互作用が知られている。
副作用には中枢神経の賦活作用による痙攣、悪心、頻脈、振戦、不整脈などがある。
このような調節が難しいことから長時間作用型のβ刺激吸入薬の普及に伴い、あまり用いられない傾向にある。
テオフィリン関連痙攣と呼ばれる副作用が報告され、日本のガイドラインでは小児に対してはその位置づけが後退傾向にある。
小児では抗炎症効果を期待して低用量の10mg/Kg/dayから使用を開始し血中濃度を10μg/ml程度を目安にするのが一般的である。血中濃度は迅速キットで測定可能であるため、内服量が不明な時もERで追加が可能である。
そのためアミノフィリンは発作治療薬としてしばしば用いられている。
抗コリン薬
吸入抗コリン薬はβ2刺激薬に比べ、気管支拡張効果が弱く、効果発現が遅い。
また、呼吸器粘膜から吸収されることにより口渇感、前立腺肥大、頻脈、緑内障といった副作用が出現する恐れがある。アトロピンの4級アンモニウム塩である臭化イプラトロピウム(アトロベント等)ではこのような副作用は軽減されている。日本ではイプラトロピウムはMDIとしてのみ供給されており、次のような状況では有用性はある。
βブロッカーにより気管支収縮が起こった場合、吸入β刺激薬に反応しない急性増悪時、モノアミンオキシターゼ阻害薬を服用している場合、重度の不整脈や不安定狭心症を合併しているため、交感神経系の刺激を回避したい場合などである。作用機序は気道が副交感神経にてトーヌスが維持されているため、トーヌスの維持を解除することで気管支拡張を得る。イプラトロピウム(アトロベントなど)、オキシトロピウム(テルシガン)は気道粘液の粘稠度を増加させないため非常に使いやすいとされている。作用持続時間は6~9時間である。