9.学校給食と食物アレルギー
食物アレルギーは加齢とともに耐性を獲得するが、時には幼稚園や小学校などの集団生活に入るまで耐性を獲得できない場合がある。学童の場合はそば、小麦、ピーナツ、甲穀類などが多く、これら食物アレルギー児に対してアナフィラキシーの既往があれば、給食においても完全除去しなければならない。なお、食物依存性運動誘発性アナフィラキシーという特殊な病態があり、小麦などの特定の食物を摂取した後に運動をすることによりアナフィラキシーを起こす。ただ種類が特定されない食物摂取と運動の組み合わせによってもアナフィラキシーを生ずる場合もある。食物が特定されれば除去を行い、特定されない場合は給食の後4時間以上の間隔をあけてから運動するのが望ましい。
10.危険な食事性蕁麻疹(アレルギー性反応)
a) 食物依存性運動誘発性アナフィラキシー:食物(小麦が最も多い。次いでエビ、イカ、カニなどの魚介類)+運動=蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下、意識喪失
b) 口腔アレルギー症候群:シラカバ花粉症+メロン、モモ、リンゴなどの果実類=シビレ感、膨疹、呼吸困難
c) ラテックスアレルギー:ラテックス接触皮膚炎+バナナ、アボガド、クリなどの果実類=全身性蕁麻疹、アナフィラキシー
自験例(食物依存性運動誘発性アナフィラキシー)
16歳の高校生。野外学習として体育の授業があり、昼食に仕出し弁当(エビフライ)を食べた。約30分後、バレーの試合に参加。しばらくして全身に蕁麻疹が出現したため当院を受診。ソルコーテフの静注により治癒した。この例は蕁麻疹が出るとすぐ運動を止めて、受診したのが幸いであった。ランニング、水泳などで蕁麻疹が出てもそのまま運動を続けていれば、重症になる可能性があった。
食物依存性運動誘発性アナフィラキシーの頻度
小学生は約1万6400人に1人、中学生は約5900人に1人、高校生は約1万1600人に1人、全体では約1万400人に1人の割合。男子が80%(24人)を占めた。正しく診断されていたのは半数以下で、中高生22人のうち4人が5回以上発症を繰り返していた。昨年の小学校調査では病気を知っている養護教諭は約64%だった(横浜市立大の相原雄幸助教授の調査)。
食物依存性運動誘発性アナフィラキシーの発症機序
30~40分以内
消化・吸収 運動
(副交感神経活動) (交感神経活動)
交感神経優位になりたんぱく質がアミノ酸に分解されずに腸管から吸収され、食物アレルギーが発症するのではないか。
参考:即時型アレルギーの実態(2001/02年度厚労省調査より)
調査対象は、何らかの食物を摂取後60分以内にその食物に対してアレルギー症状を呈し、かつ医療機関を受診した患者。2001年度は2294人、02年度は1546人の合計3840人が分析対象となった。年齢分布は0歳児の約1200人をピークに加齢とともに減少しており、6歳以下が全体の3分の2、10歳以下が全体の8割を占めた。食物アレルギーは小児の疾患であることが再確認された一方で、20歳以上の成人も1割弱を占めた。成人は軽い症状では受診しない可能性もあることから、潜在患者を含めると成人の即時型食もとアレルギーは集計結果よりも多いことが推測される。
乳幼児ではイクラが問題に
抗原別頻度の1位は鶏卵(38%、02年度の調査、以下同様)で、2位が乳製品(15%)、3位は小麦(7%)だった。4位以下で全体の1%以上を占めた食品は、順に果物、そば、エビ、魚類、ピーナツ、魚卵、肉類、大豆、木の実だった。原因抗原には年齢による違いが認められた。0歳では鶏卵、乳製品、小麦の3大抗原が全体の9割を占めたが、1歳および2~3歳では3大抗原は変わらないものの、食生活の多様化に伴いほかの食品も増加していた。特筆すべきは魚卵(主にイクラ)が1歳児で7%、2~3歳で5%と比較的高い割合を占めた。最近の母親は1歳児であっても生のイクラを与えてしまうようだ。一方、成人で一番多いのは小麦(15%)で、以下果物(13%)、魚類(11%)だった。ピーナツは成人では1%未満だが、20歳未満で3~6%を占めることや、欧米で主要な抗原食品であることを考えると、今後注目すべき抗原食品であることは間違いない。
重篤な症状は加齢とともに増加
最も多い症状は、蕁麻疹などの皮膚症状で88.0%を占め、以下、喘息などの呼吸器症状(26.7%)、唇の腫れなどの粘膜症状(23.0%)、下痢などの消化器症状(12.9%)と続く。また、死者はいなかったが、意識障害などを伴うショック症状が出た人が418人(10.9%)いた。2001~02年度調査全体で入院した患者は12.4%だったが、ショック症状を呈したものでは43.6%、特に血圧低下や意識障害を生じた95人(4.1%)では実に62.1%という高い入院率となった。ショック症状の原因食品は非常に多岐にわたっているが、血圧低下や意識障害などの重篤な症状の発生頻度が平均と比較して有意に高かったのは、そばと小麦であった。また、加齢とともに重篤な症状の発症頻度も増加していた。
表示すべき17品目をリストアップ
①年齢に関係なくアレルギーを起こす頻度が高い(1%以上)上位食品として鶏卵、乳製品、小麦、そば、エビ、ピーナツ、大豆、キウイ、バナナ、②年齢別にみて頻度が高かった(5%以上)イクラ、③ショック誘発食品の中で1%以上を占めたモモ、④意識障害や血圧低下といった重篤な症状の誘因食品として高頻度(1%以上)だったカニ、イカ、ヤマイモ、ブリ、タコ、サケという17品目が挙げられる。