欧州委員会共同研究センター環境研究所による「室内空気質とヒトへの影響 | 化学物質過敏症 runのブログ

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、欧州委員会共同研究センター環境研究所による「室内空気質とヒトへの影響-報告書No.19:室内空気質の検討における総揮発性有機化合物(TVOC)(1997年)」("Indoor Air Quality & Its Impact on Man-Report No.19:Total Volatile Organic Compounds (TVOC) in Indoor Air Quality Investigations, European Commission Joint Research Center Environment Institute 1997")では、TVOCの決定方法を検討する中で、室内空気中に現れる可能性のある各種VOCのうち、同定すべき物質として、各化学分類を代表する化合物のリストを提示している。

○芳香族炭化水素
 ベンゼン、トルエン,エチルベンゼン、キシレン、n-プロピルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、2-エチルトルエン、スチレン、ナフタレン、4-フェニルシクロヘキセン

 芳香族化合物の内の幾つかは優先物質にも入っているが、塗料や接着剤の溶剤等に広く使用されている。また、トリメチルベンゼンの一部は、染料、油性ニス、印刷インキ原料等に使用されている可能性がある。ナフタレンは衣類の防虫剤として用いられることがある。

○脂肪族炭化水素(n-C6~C16)
 n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-トリデカン、n-テトラデカン、n-ペンタデカン、n-ヘキサデカン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、1-オクテン、1-デセン

 溶剤等に用いられる。ベンジンや石油類を持ち込めば当然発生する。また、ドライクリーニングの溶剤として使われているものもある。

○環状アルカン
 メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン

 脂肪族と同様、溶剤等に用いられる。

○テルペン
 3-カレン、α-ピネン、β-ピネン、リモネン

 代表的天然成分で木質建材には必ず含まれ、柑橘類などにも多量に含まれている。香料や天然系溶剤、接着剤等としても用いられている。

○アルコール
 2-プロパノール、1-ブタノール、2-エチル-1-ヘキサノール

 塗料やラッカーの溶剤として用いられることが多い。この他に、メタノール(ラッカー溶剤等)、エタノール(溶剤、除菌スプレー、消臭剤、酒等多岐)等が存在している可能性が高い。特に一般家庭におけるエタノールの存在量は他と比較しても圧倒的に高い。

○グリコール/グリコールエーテル
 2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエトキシエタノール

 一般にはグリコール系の物質は水性ペイントやエマルジョン系の接着剤に含まれている可能性がある。一部殺菌剤や防腐剤の溶剤に使われることもある。自動車の不凍液にも添加されている。(ジエチレングリコール等)

○アルデヒド
 ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ノナナール、ベンズアルデヒド

 一部香料や防腐剤に用いられているものがある。アルコールの酸化で生じるので二次的発生もあり得る。ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等、炭素鎖の短いものは一般にVOCに分類されない*のでリストにない。ホルムアルデヒドは前記の通りであり、アセトアルデヒドは防カビ剤や香料にも用いられる。エタノールは体内でアセトアルデヒドになるので、これらは人体等からもかなり発生する。臭いがきついものが多い。

*WHOでは化学物質を沸点を基準にして4つに分類している

分類名称 略記 沸点範囲
高揮発性有機化合物
Very Volatile Organic Compounds
VVOC
< 0℃ ~ 50-100℃
揮発性有機化合物
Volatile Organic Compounds
VOC
50-100℃ ~ 240-260℃
準揮発性有機化合物
Semi Volatile Organic Compounds
SVOC
240-260℃ ~ 380-400℃
粒子状物質
Particulate Organic Matter
POM
> 380℃


○ケトン
 メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン

 油性ラッカーや印刷インキなどの溶剤等に使用されている可能性がある。上記にはないがアセトンはマニキュア除光液などの化粧品に含まれている可能性がある。

○ハロゲン化炭化水素
 トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,4-ジクロロベンゼン

 脱脂能力が高く、溶剤として用いられるが、基本的に工業用である。一部クリーニング溶剤として用いられる可能性がある。(1,4-ジクロロベンゼンは指針値が既設のパラジクロロベンゼンのことである。これは前述のように常温で固体である。)

○酸
 ヘキサン酸

○エステル
 酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸2-エトキシエチル、テキサノールイソブチレート

 樹脂、ラッカー、インキ等の溶剤として幅広く用いられる可能性があるほか、一部香料としても用いられる。酢酸エチルはメロン臭として有名であり、実際メロンに含まれている。

○その他
 2-ペンチルフラン、テトラヒドロフラン

 水性塗料などの溶剤に含まれている可能性がある。

 上記VOCリストにはあげられていないが、「健康住宅研究会」において優先取組物質にあげられた可塑剤や、防蟻剤なども多種存在している可能性がある。

○可塑剤
 可塑剤は材料に柔軟性を与えたり、加工を容易にしたりするために添加される物質のことである。主に塩化ビニルを中心としたプラスチックに柔軟性を与えるために用いられている。一般的に分子量が大きく揮発性は高くないものが多い。基本的に分子量が大きいものほど揮発性は低くなり、沸点が300℃を越えるようなものでは通常の条件下ではほとんど揮発はしない。
 可塑剤には多くの種類があるが代表的なものはフタル酸エステル類とアジピン酸エステル類である。具体的には以下のようなものがある。

 フタル酸エステル類(ジメチル、ジエチル、ジブチル、ジ-2-エチルヘキシル、ジノルマルオクチル、ジイソノニル、ジイソデシル、ブチルベンジル等)、アジピン酸エステル類(ジオクチル、ジイソノニル、ジノルマルアルキル、ジアルキル等)、アゼライン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチル、リン酸トリクレシル、アセチルクエン酸トリブチル、エポキシ化大豆油、トリメット酸トリオクチル、ポリエステル系、塩素化パラフィン等

 それぞれ特性を有しており、その特性に適した用途に用いられている。家庭内では、塗料、接着剤、壁紙、合成皮革、ホース、電線、ラップ等様々な用途に使用されている。

○防蟻剤
 防蟻剤は木材を食い荒らす害虫であるシロアリを駆除・防除するために主に床下に施工されている。(関西以西では屋根裏にも施工される場合がある。)

(社)日本しろあり対策協会が駆除剤、予防剤、予防駆除剤、土壌処理剤等について優良薬剤の認定を行っている。これらは原体そのものを認定しているものではないが、平成 12年4月現在認定商品に含まれている可能性がある薬剤には以下のようなものがある。
 クロルピリホス、ジクロロフェレチオン、ダイアジノン、テトラクロルビンホス、ピリダフェンチオン、フェニトロチオン、プロペンタホス、プロポキスル、ホキシム、アクリナトリン、アルファシペルメトリン、エトフェンプロックス、シフェノトリン、シフルトリン、トラロメトリン、ビフェントリン、フルメシクロックス、ペルメトリン、フェノブカルブ、ケルセン、アザコナゾール、シプロコナゾール、テブコナゾール、アセタミプリド、イミダクロプリド、シラフルオフェン等

 以上には有機リン系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤、カーバメート系殺虫剤、その他の殺虫剤、殺菌剤等を取り上げた。認定商品ついては随時追加登録や抹消が行われている。製剤にはこれらの他に溶剤、強力剤、展着剤、界面活性剤、乳化剤、安定化剤等が必要に応じて添加されていることが多い。クロルピリホスについては平成12年11月に同協会より使用自粛要請が出されている。
 防蟻剤はそもそも薬効を期待するものであるので、その使用法には注意が必要である。そのあたりについては「防除処理標準仕様書」*等が同協会より示されているので参考となるものと思われる。

*防蟻剤の施工等については(社)日本しろあり対策協会で「防除処理標準仕様書」、「安全管理基準」の設定、「防除薬剤等」の認定、「しろあり防除施工士」資格制度、「建築物防蟻防腐処理業登録」制度の設定等を行っている。しろあり防除に際してはこれらの基準が遵守されることが重要であろう。同協会の登録業者についてはホームページで確認できる。(URL:http://www.hakutaikyo.or.jp/ )

 また、シロアリ駆除が目的ではないが、上記のうち一部薬剤は畳の防虫加工紙として使用されることもある。

 以上は、代表例をなるべく網羅的に取り上げてきたものであり、これらの物質は健康影響を指標にして選択されたものではない。中には薬効が知られるものもあり、そういったものは適量であれば人体にも意図した効果を示すものもあるであろう。また適切に使用することにより、生活の質を向上させているものも多々あり、全てを排除しようとするのは不可能である。また、空気中に存在する物質は当然これだけではない。建材、家具、日用品から放散される他、様々な生活行為によっても空気質は大きく変化することは念頭に置いておく必要があるだろう。