1)ホルムアルデヒド
<一般的性質>
ホルムアルデヒドは無色で刺激臭を有し、常温ではガス体である。水によく溶け、35~37%の水溶液はホルマリンとして知られている。分子量は30.03であり、常温での蒸気密度*は約1.07である。これは、空気と比較してほぼ同じ重さである。空気との混合気体も同様である。
*空気(主に窒素、酸素等の混合物である)と比較したときに、同体積の気体がどれだけ重いかの指標になる。この値が大きいほど空気に比べて重くなる。
<主な家庭内における用途と推定される発生源>
合板、パーティクルボード、壁紙用接着剤等に用いられる尿素(ユリア)系、メラミン系、フェノール系等の合成樹脂*や接着剤の原料となるほか、一部ののり等の防腐剤や繊維の縮み防止加工剤等、さまざまな用途の材料として用いられている。
*多くの合板ではこれら樹脂とホルムアルデヒドが熱圧着により反応・硬化することで接着されている。一般的には ユリア樹脂>メラミンユリア共重合樹脂>フェノール樹脂 の順に放散量が低下するといわれている。最近では、これとは別の系列の接着剤を用いた、ホルムアルデヒドを基本的に放散しない合板も開発されている。
室内空気汚染の主な原因として推定されるのは、合板や内装材等の接着剤として使用されているユリア系、メラミン系、フェノール系等の接着剤からの放散(未反応物もしくは分解物)である。建材だけでなく、これらを使用した家具類も同様である(木製家具、壁紙、カーペット等)。また、喫煙や石油やガスを用いた暖房器具の使用によっても発生する可能性がある。
ホルムアルデヒド系の接着剤の硬化・脱ホルムアルデヒドの反応機構例
ここでは代表的なユリア(尿素)とホルムアルデヒドの反応を示した。基本的に全てのNが反応可能であり、さらに複雑な架橋が形成され得る。硬化した樹脂中にも存在すると考えられる(1)や(3)の形態は、環境条件によっては上記のようにホルムアルデヒドを発生する可能性があるので、比較的長期に渡って少量ではあるが発生が続く可能性がある。
<健康影響>
短期暴露では0.08ppmあたりに臭いの検知閾値があるとされ、これが最も低い濃度での影響である。0.4ppmあたりに目の刺激閾値、0.5ppmあたりに喉の炎症閾値があるとされ、3ppmでは目や鼻に刺激が起こり、4~5ppmでは流涙し呼吸器に不快感が生じる。31ppmあたりで重篤な症状が起こり、104ppmあたりでは死亡する。IARC*で「ヒトに対し恐らく発がん性がある(2A)」と分類されているが、その作用機序からある一定以上の暴露がなければ発がんは起こらない(閾値がある)ものとされている。
*IARC(International Agency for Research on Cancer)はWHOに所属する国際的ながんの研究機関で、物質の発がん性について1, 2A,2B,3,4のクラス分けを行っている。
1: ヒトに対して発がん性を示す
2A: ヒトに対して恐らく発がん性を示す
2B: ヒトに対して発がん性を示す可能性がある
3: ヒトに対する発がん性について分類できない
4: ヒトに対して恐らく発がん性を示さない
<現在の指針値>
現在の指針値は100μg/m3であり、臭いの検知閾値周辺の0.08ppmであるが、これはその他の健康影響が観察された濃度に安全率を加味したものよりも低い値である。
※海外におけるホルムアルデヒドの指針値
ホルムアルデヒドについては、それぞれの国や機関において基準値の設定や勧告が なされている。概要は以下の通りである。
・世界保健機構(WHO) 0.08ppm
・米国
カリフォルニア州 0.05ppm
ウィスコンシン州 0.2ppm
空調冷凍衛生協会 0.1ppm
・カナダ 0.05ppm(目標値)
0.1ppm (行動値)
・オーストリア 0.08ppm
・オーストラリア 0.1ppm
・オランダ 0.1ppm
・スウェーデン 0.1ppm
・デンマーク 0.12ppm
・ドイツ 0.1ppm
・フィンランド 0.13ppm