第4 提言
1 被害実態の調査
化学物質過敏症は、ひとたび発症してしまえば、化学物質に溢れた現在の環境においては、通常の生活を行うことすら困難であるが、そのような深刻な病態にも関わらず、現在に至るまで、化学物質過敏症の大規模な被害実態調査などは行われていない。
化学物質過敏症については、一般市民はもとより、医師の知識も不十分であり、実際は化学物質過敏症であるのに、別な疾病として診断されることがあることも、その被害者数や実態などが表面化しない一要因といえる。また、特定の地域ではなく、広くわが国において発症していることも、その実態調査を困難にしている。
化学物質過敏症に対する対策の具体化・実効性確保のためにも、早急にわが国における被害実態の調査が必要である。
2 規制の強化
(1) ガイドライン等への法的強制力の付与
国により策定されている「化学物質の室内濃度指針値」、「職域における屋内空気中のホルムアルデヒド濃度低減のためのガイドライン」といったシックハウス症候群あるいは化学物質過敏症の対策としての行政指導的な諸内容を、法的強制力のある規制として強化すべきである。
ガイドラインではなく、法的拘束力ある規範とすることによって、未然防止により、被害の発生自体を抑止できる。
(2) 規制対象化学物質の範囲拡大
室内空気質に影響する発生源及びこれらから発生する化学物質の種類と濃度の調査を広く実行するとともに、その調査結果やPRTR情報等をもとに、多量に使用・排出されている化学物質については、建築基準法、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管理法)、住宅の品質確保の促進に関する法律、有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律、大気汚染防止法といった法令において規制の対象とするなど、規制対象化学物質の範囲を拡大すべきである。特に、上記厚生労
働省の室内濃度指針値が設定されている13物質については、速やかに規制対象とすべきである。
(3) 公共施設等における重点規制
既に化学物質過敏症に罹患した人を含む化学物質に敏感な人々に対する厳しい指針値・基準値を別途設定し、少なくとも日常生活に欠くべからざる学校、病院、役所、公共交通機関などの公共の場所は、この厳しい指針値・基準値に十分配慮した対策をとるようにすべきである。
(4) 汚染源たる製品規制等
室内濃度基準を設定するのみならず、建材等に対する規制や、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」を利用した発生源対策としての製品に対する規制、有害化学物質をできるだけ使用しない工法、衛生管理等の手法の開発・普及の積極的な推進等が必要である。
3 救済体制の整備
(1) 一般市民や関係者への知識等の普及
一般市民、教育関係者、一般事業者等に対して、化学物質過敏症や化学物質による健康影響についての知識等の普及をより一層推進、強化すべきである。
(2) 医療体制の整備
ア 専門的医療機関の整備、医療従事者への啓発等の推進、徹底
化学物質過敏症等への認知・対処のため、医師に対する研修・周知の徹底等を行うとともに、化学物質過敏症やシックハウス患者に対処しえる医療機関をより一層増やす必要がある。
イ 罹患者が他の疾患に罹患した際に受診できる医療機関の確保
一般医療機関に対して、化学物質過敏症に関する知識の周知徹底を行い、少なくとも公立病院や地域の拠点となるような総合病院においては、化学物質過敏症患者が受診できるような設備等を設けるよう検討すべきである。
ウ 保険診療の適用
シックハウス症候群だけではなく化学物質過敏症についても、端的に保険適用ある病名として承認すべきである。
エ 転地療養施設等の整備、運営する民間団体等の支援
化学物質過敏症は、日本全国どこでも生じうる疾病であるので、日本各地に、前述のような転地療養施設、特に医療施設が付設された施設を建設すべきである。あわせてそれを運営する民間団体等を支援する必要性も高い。
オ 転地療養等により経済的負担の大きい罹患者への経済的支援化学物質過敏症の場合には、患者の経済的な負担が極めて重いということのほか、加害者に対して損害賠償請求を行うことが決して容易ではないという特徴があるため、新たな制度を設けて、特に転地療養費用の給付を行うことが重要である。
当該制度は、汚染者負担の原理に基づきつつも、社会保障的観点も加味した制度とすべきであって、具体的にその制度の財源としては、まずは、ある種の化学物質により健康被害が生じる根本の原因は、当該化学物質を製造・使用し、製品等を流通させて利益を得ている化学産業界にあると言えるので、製造・使用する化学物質の種類及び量に応じて、化学産業界等に対し、一定の負担を求めるべきである。
また、化学物質が日本全国にほぼ万遍なく蔓延している現状からすると、何らかの原因により、化学物質による暴露を受け、健康被害を被る可能性(危険性)はわが国で生活するすべての市民が負担しているのであるから、国民の「すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努め」るべき義務を負う(憲法25条2項)国も一定額を負担すべきであろう。