2005年8月26日日本弁護士連合会より4 | 化学物質過敏症 runのブログ

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(2 室外空気汚染
(1) 法的規制
大気汚染防止法は、以前から規制の対象になってきたNOx やSOx(硫黄酸化物の総称)のほかにも、1996年の一部改正により、大気中に微量に存在する種々の有害大気汚染物質について、事業者には有害大気汚染物質の排出抑制についての努力義務が、国と地方公共団体には、有

害大気汚染物質による汚染状況を把握する義務などが定められた。また2004年改正法においては、浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントによる大気汚染の防止のため、VOCの排出抑制対策を行うものとされている。
農薬については、2002年12月の農薬取締法の改正により、農薬使用基準は遵守すべき基準とされ(第12条第1項)、これに基づき農林水産大臣が、農薬の安全かつ適正な使用を確保するため、使用の時期、方法等につき、農薬使用者が遵守すべき基準を定める省令を制定した。また、省令第6条には、農薬使用者は住宅地等において農薬の飛散防止措置を講ずるよう努めなければならないと規定されている。
また直接的な規制ではないが、2002年度から特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(略称PRTR法)により、空気、水、土壌などへの化学物質の排出情報が入手できるようになった。リストに掲載された対象化学物質を製造使用している事業者は、環境中に排出させた量と、廃棄物などとして処理するため事業所の外へ移動させた量を自ら把握し、年1回国に届け出、国は届出データを集計するとともに、届出の対象とならない事業所や家庭、自動車などから環境中に排出されている対象化学物質の量を推計して、二つのデータを公表することとされている。
(2) 問題点
大気汚染防止法におけるVOC排出抑制については、法規制と自主的取組のベストミックスとし、法規制については、VOC排出事業者に対して、VOC排出施設の都道府県知事への届出義務や排出基準の遵守義務等を課すこととされている(2006年春に施行予定)。ここで、当該法規制は、その規制対象をVOC排出量の多い主要な施設のみに限定し、その他の施設については、自主的取組によって対応がとられることになっている。
自主的取組の必要性は多言を要しないところであるが、その進行状況については、常に監視が必要であり、自主的取組による排出抑制が進行しないような場合には、法的規制の導入を検討するなどの今後の運用が必要であろう。
また、農薬成分を含んだ農業用以外の化学物質(シロアリ駆除剤など)が規制の網から漏れているので、成分に着目した規制がなされることが望ましい。加えて、農薬は、化学物質過敏症のみならず、広く健康への影響が懸念される物質であるところ、農薬の空中散布をする場合には、多数の近隣住民に被害を生じさせるおそれがあることは、多言を要しな

いところである。当連合会においても、1990年の人権擁護大会において、すでに農薬の空中散布を禁止すべきことを決議している。
また、上記の規制のほか、一定の化学物質を排出する施設を建設する際に環境アセスメントの手法を必要とすることなどを検討する必要があろう。
しかし、近隣の工場、作業所、農地、住宅等から出される化学物質による被害は、新築やリフォームなどによるシックハウス症候群と異なり、汚染源を特定することが難しい。現代の都市や農村は、多種類の化学物質が満ち溢れていると言えるほどであるから、その中で、被害を発生させているものに被害者自身が気づかないこともある。さらに、発生場所がある程度特定できても、どのような物質が排出されているかを測定し、自己の病状がその化学物質によるものであるという因果関係を特定することは、さらに困難である。また、その発生原因・汚染源が多数・多様であることからも、それに対応した形で具体的・柔軟な規制を行うことに技術的な難しさがある。
そのため、室外空気汚染への対策については、事前規制が困難である分、化学物質過敏症に対応できる医療施設の拡大、避難施設の設置や労災保険適用の拡大、化学物質による被害者に対しての補償を内容とする基金・補償制度の設立などの、医療体制・救済体制の確立が必要であるところ、このような制度が存在していないこと自体が大きな問題といえよう。
第3 救済等の現状とその問題点
1 医療体制
(1) 現状
ア 診断基準
化学物質過敏症の診断基準について、米国においては、前述の専門家医のグループの基準が設定されているが、日本においても、問診(症状、生活歴、住環境、周辺環境など)に加え、化学物質過敏症においては自律神経系による種々の調節機能障害が認められることが特徴としてあげられることなどから、瞳孔反応検査、眼球追従運動検査、コントラスト検査、SPECT検査(脳の血流検査)、前頭部大脳皮質の機能変動検査、誘発試験などの検査が実施されている。そして、これらの検査によって、客観的に異常所見を検出できるようになっており、少なくとも、身体的異常の存在については客観的証拠による科学的証明が可能であるといえる。
イ 専門的医療機関

化学物質過敏症を診療している医療機関は、北里研究所病院、旭川医科大学附属病院、国立相模原病院、国立療養所盛岡病院、国立療養所南岡山病院、国立療養所南福岡病院、東京労災病院、関西ろうさい病院のほか、この疾患に関心をもつ一部の開業医、勤務医などに限られる。このため、居住地の近くにこのような医療機関・医師が存在しない患者は、専門的な受診すらできない現状である。
(2) 問題点
ア 専門的医療機関が少なく、医療従事者の知識も不足していること
化学物質過敏症は一般臨床医には十分認識されているとは言いがたく、化学物質過敏症を診療する医療機関が限られていることからも、患者が専門的な受診を受けられない場合もある。その結果、患者が適切な診断や治療を受けることができずに時間が経過して症状を悪化させることも少なくない。特に、化学物質過敏症患者には、家庭にいる中高年の女性が多いことから、臨床医の知識の不足により、更年期障害や加齢による症状と誤診され、被害が放置される可能性があることも問題である。
イ 罹患者が他の疾患に罹患した際に受診できる医療機関が少ないこと
化学物質過敏症患者は、病院に存在する化学物質(病院の建物の新建材、床ワックス、消毒薬、薬剤、塩化ビニール性チューブ等の医療器具など)に反応して症状を誘発されることも多く、一般の医療機関で受診することにも大きなハードルがあり、特に他の病気にも罹患している患者にとっては、手術や特殊な薬剤を使用した療法を受けられないなど大きな問題となっている。
ウ 保険診療の適用が認められていないこと
化学物質過敏症が、国によって病名として認められていないことから、化学物質過敏症についての診療や検査の一部については、健康保険が適用されず自由診療となってしまう。化学物質過敏症により、仕事にも支障がでていることが多い患者からすれば、このような経済的負担は極めて重く、重大な問題である。
エ 転地療養施設等が整備されていないこと
化学物質過敏症の治療は、第一に原因物質からの隔離であり、その原因が住居にあるシックハウス症候群の場合には、問題となる住居から退去することが先決である。
そして、化学物質過敏症患者は、化学物質に晒されれば、それだけ症状が悪化することから、本来、できる限り化学物質に触れない生活をする必要がある。
しかしながら、現代生活において化学物質の吸引・接触を完全に避けて

生活・労働することは現実的に困難であり、症状が寛快・増悪を繰り返し、治療効果が得られ難い場合が多い。さらに、重症者の場合には、人里離れた場所での転地療法が必要となる場合が少なくないが、適当な転地を探すことは極めて困難である。ここで、アメリカ等においては、化学物質過敏症患者の転地療養のための専用施設がすでに存在しているが、日本においては、NPOが管理運営する一時転地住宅が旭川市及び伊豆市に存在するのみである。
オ 転地療養等により経済的に極めて困窮していること
そもそも、化学物質が原因で被害を被った場合でも、被害者は、化学物質の製造者などの事業者(加害者)との間では、被害メカニズムの調査・立証能力の絶対的格差が存在する。そのため、被害者は、因果関係の立証が難しいなど、加害者に対して損害賠償請求を行うことは決して容易ではない。
特に、ローンを負担して建てた家がシックハウスであったような場合などは、そのローンの支払に加えて、転地した先の家賃や活性炭、空気清浄機、換気装置などの費用を負担しなければならず、また、治療法が確立していないことから、保険適用のない漢方薬やビタミン剤、あるいはサウナ、温泉治療などを実費で負担せざるを得ない状況である。