(1) 室内における被害
ア 一般的な建築物において
現在の住宅においては、化学物質を発散する建材や内装(壁紙・床材・接着剤)などが使用されている。特に、近年、一般住宅の気密性の向上により、自然換気の量が減少していることから、居住者が特に注意して換気を行うなどしない限り、化学物質の室内濃度が高くなりやすいため、これが、化学物質過敏症を生じさせる要因の一つとなっている。
また、建物内に存在する家具や芳香剤、消臭剤、殺虫剤などのなかにも、化学物質が多用されている製品等が多く、これらも化学物質の発生源になりうる。
イ 学校において(シックスクール)
(ア) 「子ども」の特性
子どもは、特に乳幼児期において、感受性が高く、解毒能力が未成熟であることからも、一般的に大人よりも化学物質の影響を受けやすい。また、子どもは、体重あたりの飲食量や大気の吸入量が大人よりも多く、化学物質の暴露量が多いことが知られている。
そして、子どもの時期に受けた化学物質汚染の被害は、その後の成長や健康に不可逆的な影響を及ぼす危険がある。
1997年、G8の環境大臣会合において採択された「マイアミ宣言」は、子どもの脆弱性を考慮し、暴露予防こそが子供を環境の脅威から守る唯一かつ最も効率的な手段であると謳い、子どもの特性を配慮した環境リスク評価と基準の設定や、室内・室外の大気環境の質の改善等の具体的課題を挙げている。
(イ) 「学校」の特性
子どもは、一日の活動時間の大半を学校で過ごしており、長時間接する学校内の空気が汚染されている場合には、その影響・被害は極めて重大である。また、校舎の建材・塗料・ワックス、シロアリ駆除剤、校庭の農薬、教材(印刷物、油性ペン等)や、多数の子どもが持ち込む多様なもの(文房具、化粧品、整髪料)などにより、子ども達は多種多様な化学物質の複合汚染の中にいる。
加えて、授業中に室内空気の汚染を感じたとしても、教室内という特殊な空間では、個人的な行動をとることは難しく、迅速な回避行動が期待できないため、結果として長時間室内空気の汚染にさらされる危険が高い。
ウ 職場において
平成16年版厚生労働白書によると、平成15年度の労働者の総実労働時間は1853時間/年である。このように人が1年(8760時間)のうち20%以上を過ごす職場は、自宅に次いで良好な環境維持が求められる場である。そして、職場は、自宅と同視できるSOHO環境から、機密性の極めて高い高層ビル・オフィスビル、そして化学物質そのものを扱う工場や作業現場など、多種多様な環境下にある。
たとえば、先に子どもについて述べた学校を職場とする教職員については、子ども達よりも長時間学校に滞在することが多いため、より長時間にわたって汚染された空気に暴露されている。そのため、近時こうした教職員が、シックハウス症候群・化学物質過敏症により労災の申請を行うケースが少なくない。
職場は、労働者が生活の糧を得る場であるため、少々の体調不良であれば無理を押して勤務を続け、社会的に被害を表面化させないことが多く、他方で、被害が表面化した場合には、労働者には回復困難な程の重大な健康被害が残る場合が少なくない。逆に、使用者側は、環境改善のためには多額の設備投資を必要とすることがあるため、対策に及び腰となり易いという問題点がある。
(2) 室外における被害
化学物質過敏症を起こす化学物質は室内にのみあるのではなく、自動車排ガス(ディーゼルの微粒子等)やクリーニング・印刷工場などから排出される揮発性有機化合物(VOC)を初めとする汚染物質は室外大気にも大量に含まれている。
その他、小型焼却炉から発生する排煙、近所の工事現場で燃やす廃材の煙、農家・団地・学校・保育園・公園・街路樹・隣家の家庭菜園等にまかれる農薬、空中散布される農薬、隣家のシロアリ駆除剤などにより化学物質過敏症を発症した患者は多数存在する。
また、いわゆる杉並病等の不燃ごみ処理施設から漏洩した化学物質により発症する場合もある。