① 医学的対応
Ⅰ 初診時の対応
シックハウス症候群(SHS)の症状は多彩で多臓器にわたるため鑑別診断が重要となる。内科学的な臨床を習得した医師にとって、本症の鑑別診断はさほど困難ではないが、症状に応じて、循環器科、呼吸器科、アレルギー科、内分泌・代謝内科、心療内科、耳鼻科、眼科への紹介を考慮する。すなわち、既存の疾患では説明できない患者の場合、本症を疑うと言う側面もあり、除外診断を旨とすべきである。
そして、本症の診断と対応において、問診は極めて重要であり、30.60分程度の時間をかける必要がある。時間をかけて、丁寧に患者の訴えを聴取することが、正しい診断の前提であるのみならず、患者との信頼関係を築き、治療の第一歩となるからである。
また、医療施設は一般の家屋に比べて化学物質は多いと考えられ、待ち時間や診療に要す時間に耐えられない患者もいる。本症の受診は予約制とし、極力、化学物質の少ない環境下で、診療できるようにすることが望ましい。
1.家族歴
SHSには何らかの素因が関与する可能性は否定できないので、家族歴についても問診しておく。また、SHSの診断では、同居家族の症状の有無が中毒との鑑別において重要である。
2.既往歴
他疾患との鑑別を念頭に、既往歴を聴取する。また、SHSの発症以前に(多くは数年以上前)、何らかの症状を認めていることが少なくない。なお、本症はアレルギー疾患、特にアレルギー性鼻炎の合併が高率である。
3.現病歴
発症時は患者自身、本症とは気付いていない場合が多く、前医にうつ病、パニック障害、更年期障害などと診断されていることもある。本症の症状をよく認識し、発症パターンとその後の経過を理解して病歴を聴取することが重要である。
1)症状
当院受診患者の症状を中心に本症の症状を表1に示した。SHS群では、頭痛、結膜症状、咳嗽・喀痰の順に多く、また、2、3の症状のみの患者から20数種類の症状を訴える患者もあり、本症の症状は極めて個別性が高い。
2)発症パターン
自宅や職場の新築、リフォームなどが発症の契機になっている場合が多い。暴露後、数日.数ヵ月(多くは1.2ヵ月)で発症しており、亜急性の発症パターンを呈す。
新築の家屋の空気は建材の塗料、接着剤、防腐剤やシロアリ
駆除剤などの防虫剤などで汚染されており、これらに持続的に暴露され発症する。
初期の数日間、他の家族や同僚も何らかの症状を呈している場合があり、このようなケースでは初期の化学物質濃度が高かった可能性があり、SHSの古典的発症パターンといえる。