眼科)
Ⅰ シックハウス症候群の眼症状
シックハウス症候群(sick house syndrome; SHS)に関しては,世界保健機構(WHO)のシックビルディング症候群診断基準の第一項目に「目,鼻,のどの刺激症状,粘膜の乾燥感」が述べられているように,眼症状は臨床上重要な症状としてあげられている。
また,視力調節障害をSHSの症状として取り上げる考え方もある。
眼以外に鼻腔,咽頭刺激症状もあわせて考えると,粘膜刺激症状の一つとして,眼刺激症状が現れていると理解すべきではないかと思われる。
また粘膜の乾燥感には眼表面の乾燥感も含まれることが推測される。
皮膚の痒みもSHSの自覚症状としてあげられているが,眼瞼皮膚は痒みなどの症状が出現しやすい部位であり,刺激感だけでなく,痒みも眼症状の中に含められるといえる。眼瞼など眼周囲が痒い場合,皮膚瘙痒感は眼瘙痒感として現れることも多く,眼を掻きたいといった訴えとなる。
視力調節障害は化学物質中毒で見られる症状としてのものであり,臨床症状としては,霧視(暗くなる),視力低下(目がかすむ),ピントが合わないといった自覚症状である。
これは主として,副交感刺激による症状であり,縮瞳によって,眼に入る光量が減少し,瞳孔括約筋の緊張状態のために,遠近の調節が減弱している状態である。自覚的には,遠方よりも手元が見にくいという表現になることが多い。
Ⅱ シックハウス症候群と鑑別すべき眼疾患
上記のSHSの症状とされているものの中で,眼刺激症状,瘙痒感と視力調節障害の二者はかなり性格の異なる症状であり,原因となる家屋を離れることによる症状の消失と再現性などの病歴を把握すれば,他の眼疾患の可能性は否定してよいと考えられる。
しかし,眼刺激症状,瘙痒感と視力調節障害は必ずしも同時に出現するとは限らないので,いくつかの眼疾患との鑑別が必要になることはある。アレルギー性
. アレルギー性結膜炎
結膜充血と結膜濾胞が見られる。
結膜充血と結膜濾胞が見られる。眼瘙痒感が主症状であり,症状の強い症例では角膜合併症によって,眼異物感(ゴロゴロする感じ)も見られることがあるため,SHSと類似した臨床所見を示すことがある。
しかし,しみる感じというほど強い眼刺激感を有することは通常なく,季節性を特徴とすることから,SHSとの鑑別は可能である。
ただし,SHSの眼症状からの検討では,結膜における好酸球の出現や臨床的に通年性アレルギー性結膜炎と共通したものも多いため,厳密な鑑別診断には慎重な検討が必要である。一部の化学眼外傷では,角膜に対する傷害から眼刺激感と同時に視力低下を示すことがある。
この場合は,受傷の原因物質の特定や角膜所見で広い範囲の角膜びらん,結膜壊死などの所見が確認できれば,SHSは否定できるといえる。一方,視力低下や調節障害を生じる眼疾患は多数にのぼるが,これらの症状が急性に生じて,可逆性であるという疾患はまれである。眼疾患とはいえないが,いわゆる立ちくらみである起立性低血圧は学童,生徒の中に見られ,学校で症状が現れることから,SHSと紛らわしい面もある。
しかし,着席あるいは休息によって症状が軽快することが鑑
別点となる。壮年期以降では一過性脳虚血発作(Transient ischemic attack: TIA)との鑑別が必要となる。TIAは突発的に起こり,数秒ないし15分以内で消失する場合は鑑別が困難である。
内頸動脈硬化症の存在などの原因の検査を通して鑑別を行う。