シックハウス症候群診療マニュアル17 | 化学物質過敏症 runのブログ

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(耳鼻科疾患)
Ⅰ シックハウス症候群(SHS)とアレルギー性鼻炎
SHSの症例は高い割合で鼻内刺激感、ムズムズ、鼻閉、嗅覚異常といった鼻症状を伴うことが知られており、アレルギー性鼻炎との関連が注目されてきた2,3)。しかし、アレルギー性鼻炎は後述するように、IgE抗体を介した鼻粘膜で生ずる典型的なⅠ型アレルギー疾患であり、患者のほとんどで原因抗原の同定が可能である。他方、SHSはホルムアルデヒドなどの化学刺激物質にIgE抗体を有する症例もみられるが、IgE抗体を介したⅠ型アレルギー疾患ではない

現在、日本ではダニに対する感作率は小児では50%近くに、スギ花粉に対する感作率は20歳代では70%に達しており、SHS症例にアレルギー性鼻炎の合併やアトピー体質がみられることは多い。それだけで病態の関連を指摘することは難しい。
SHS症例への詳細なアンケート調査からアレルギー性鼻炎との症状比較を行ったところ1)、アレルギー性鼻炎では特にくしゃみの頻度が高く、SHSが10倍以上と高い頻度でみられる症状は, まぶしい、においに敏感、のどがヒリヒリする、のどがつかえる、のどが乾きやすい、耳がかゆい、皮膚がチクチクする、皮膚が赤くなる、めまい・たちくらみ、頭が重い、息がしにくい、体がだるい、眠れない、将来に希望が持てなくなるなどである。これらはアレルギー性鼻炎でも認められるQOL低下項目であるが、SHS症例に高率に認められていた。

Ⅱ アレルギー性鼻炎の定義、概念および病態4)
アレルギー性鼻炎は鼻粘膜の抗原特異的IgE抗体を介したⅠ型アレルギ
ー性疾患で、原則的には発作性反復性のくしゃみ、水様性鼻漏、鼻閉を3主
徴とする疾患と定義されている。大多数の患者で原因抗原(アレルゲン)の
同定が可能である。アレルギー性鼻炎は、好発時期から通年性と季節性(花
粉性)に大別される。

アレルギー性鼻炎の発症には様々な遺伝因子と環境因子が関与すると考
えられている。環境因子としては、第1に原因抗原が挙げられ、通年性で
はダニ、季節性ではスギが圧倒的に多い。その他、イネ科、キク科などの
花粉、イヌ、ネコといったペットの毛やふけなどが主な原因抗原を占める。

抗原以外の環境因子としてディーゼル排出粒子など大気汚染、喫煙、居住
環境の変化、高蛋白・高脂肪食といった食生活、腸内細菌叢の関与、結核
や寄生虫も含めた感染症の減少による影響が指摘されているが、十分に解
明されている訳ではない。

病態、鼻粘膜表層の肥満細胞上の特異的IgE抗体との抗原抗体反応の結
果、肥満細胞より遊離された化学伝達物質のうち、ヒスタミンは鼻の知覚
神経である三叉神経を刺激する。刺激は中枢に伝えられ、くしゃみ発作を
誘導するが、同時に副交感神経を中心とした反射路を介して、鼻腺や鼻粘
膜血管に伝えられ、鼻漏や鼻閉の発現に関与する。

一方、遊離された化学伝達物質は、鼻腺や鼻粘膜血管に直接にも作用する。この中で鼻汁分泌に関しては神経反射を介しての経路が、鼻粘膜血管腫脹への影響はロイコトリエンを代表とする化学伝達物質の直接作用が大きく関与することが明らかになっている。

病態形成には、他にも様々な因子が関与しており、鼻粘膜上皮細
胞の障害による知覚神経終末の露呈や、上皮の透過性亢進は過敏性形成に
大きな意味を持つ。


また、抗原侵入後のⅠ型アレルギーによる即時反応の
みではなく、好酸球を中心とした炎症細胞の浸潤が誘導され、鼻閉を中心
とした遅発相を誘導し、さらにはアレルギー性鼻炎の遷延化、重症化に関
与すると考えられている。近年、このようなアレルギー性鼻炎で見られる
IgE抗体産生、炎症反応誘導の根底にはTh1/Th2サイトカイン産生のアン

バランスの存在や調節性T細胞の障害が指摘されている。

Ⅲ アレルギー性鼻炎の臨床症状と診断法
花粉の鼻腔への侵入後に直ちに生じる発作性反復性のくしゃみ、水様性
鼻漏、鼻閉の3主徴に加え、患者の約50%では、抗原侵入後数時間で鼻閉
を中心とした遅発症状が認められる。

問診では症状とその程度以外に、好発期、合併症、既往歴、家族歴も重
要である。

典型的なアレルギー性鼻炎患者では、蒼白に浮腫状に腫脹した
鼻粘膜と水様性分泌液が鼻鏡で観察されるとされるが、花粉症では発赤し
た鼻粘膜が多くの場合にみられる

また、鼻水には多数の好酸球が認められる花粉症が症状から強く疑われれば、皮膚テストや血清特異IgE抗体定量により診断・治療方針の決定に進む。

誘発テストはハウスダスト、カモガヤ以外には誘発検査に使用するティスクが入手出来ない為一般には行われていない。典型的な鼻炎症状を持ち、鼻汁好酸球検査、皮膚テスト(または血清IgE抗体陽性)が陽性ならばアレルギー性鼻炎と診断できる。典型症状を有し、アレルギー検査でIgE抗体が明らかに陽性なら花粉症と診断することが可能である。

鑑別として急性感染性上気道炎(好中球増加を伴う粘性あるいは粘膿性の鼻汁、経過は短い)、血管運動性鼻炎(類似の鼻症状示すがアレルギー検査で全て陰性)、好酸球増多性鼻炎(類似の症状示し、鼻汁に好酸球増多認めるが、他のアレルギー検査が陰性)などがあるが、これらの症患の頻度はアレルギー性鼻炎の1割以下と少ない。

Ⅳ ホルムアルデヒドのアレルギー性鼻炎への影響
高濃度のホルムアルデヒドに曝露される医学部解剖実習生を対象にした調査では、ホルムアルデヒド吸入により総IgE、特異的IgE値には明らかな
変動は認められなかった。

一方、アレルギー性鼻炎合併者のヒスタミンに対する鼻粘膜の反応性は一過性に亢進がみられた。

但し、実習終了後にはほとんどが改善している。このような過敏性亢進はアレルギー性鼻炎合併者のみに認められた。

さらに嗅覚については、嗅覚検査において一過性に嗅覚閾値の上昇がアレルギー性鼻炎合併者のみに認められた。

ただ、嗅覚閾値の低下は認められなかった。ホルムアルデヒドによりアレルギー性鼻炎患者で、鼻粘膜過敏性亢進、嗅覚障害が生じやすいことが考えられる。但し、反応はホルムアルデヒドの刺激が無くなれば可逆的である可能性が高い。