いつもありがとうございます!アクセス数が、昨日比、三倍に迫る勢いで大変嬉しいです。ご覧いただいていいる皆様には本当に感謝です。当初のブログ開設目的とかけ離れてきたので、思い切って記事を整理して、小説1本にしてみました。引き続きよろしくお願い致します! ※登場人物や場面設定は架空のものです。

 

「木村、お前、来週の金曜日にバイト上がりに飲み付き合えよ。S女子大のまなみがようやく遅番でタイミング一緒になったから、飲みに誘ったら、みんなで行くなら参加すると言うから、とりあえず当日の遅番全員ってことになってさ」

 

「押忍(おす)」

 

空手部の挨拶は決まって「押忍」。採用している流派や大学とそうでない流派が諸説あると聞いてたが、うちの大学は採用派。「ハイ」「おはようございます」「さようなら」、全ての挨拶は「押忍」。しかも、上級生に絶対服従の縦社会において、「いいえ」を意味する言葉が存在せず、ひたすら「押忍」しかなかった。

 

(まいったなー、、、金曜日は池田が鈴木さんとナカミ―との第二回飲み会やろうと言われてたから、バイト入れてなかったのに、飲み会に行けなくなっちゃったよ。。。)

 

この手の事故はよくある話だったが、上級生が下級生を飲み会に誘う目的はただ一つ。それは権力誇示と、使いっぱしりとして、酒を注がせ、盛り上げ役をさせること。もっとともその補償として、「今日は俺のおごりだからよ」となるわけだが、いずれにしても、ナカミ―と会える千載一遇のチャンスを逃してしまった。

 

「木村お前だめなの?そうか、坂下さんの命令なら仕方ないよな。あの人、お前気に入っているもんな。わかった。鈴木さんとナカミ―にはうちの先輩から呼び出しくらったこと話しておくよ。」

 

僕の欠席をすんなり受け入れてくれた池田としては、僕がいなければ、ナカミ―に近づくチャンスでもあり、恐らくはしっかり狙っているであろう。そんなことをおくびも出さずにいることが少し気がかりで、不安がよぎった。しかし、部活の上下関係のため、何をどうやっても断ることができず、ついに当日を迎えることになった。

 

迎えた金曜日。僕は会場の渋谷に向かった。夜10:30から始まった飲み会では、先輩の坂下さんの音頭で、男女合計8人の飲み会だった。この坂下さん、髪型は茶髪のショートカットで、僕が過ごしてきた空手業界とは違う雰囲気の人で、女性にもこまめで、ようするに僕と正反対。それなのに組手になると、天才的なスピードで突きや蹴りで攻撃してくるから、世の中運動も女性もなんでもできる人がいるもんだと羨ましくも思った。

 

飲み会には坂下さんの狙っているまなみさんがいた。身長は170cmはあるだろうか。浅野温子のようなストレートヘアに、白いシャツとスリムのデニム、少し高さがあるヒールと、まさに浅野温子そのもののような爽やかなファッション。バイト仲間によると、どこかでモデルをしていると聞いているが、本人は本気でモデルをする気がなく、腰掛でやっているだけ、それよりもレストランのバイトの方が楽しいということで、働いているという変わった人だった。

 

飲み会が始まると、部活の飲み会と同じように、坂下さんをはじめ皆さんにお酒を注いで回り、初めてお会いした女性には自己紹介をし、目上の方のたばこに火をつけて回った。

 

「そんなにかしこまらねくてもいいよ。ここは部活じゃないんだから」

 

特に女性陣にたしなめられていたが、坂下さんは大きな声で回りを盛り上げようと話しつつ、時々こちらを見る目は笑ってない、いつもの通り、そそうがないか厳しいチェックが入っていた。

 

「おーい、木村、そろそろいつものやってくれや!」

 

「押忍。かしこまりました。学生ちゅーーーもーーーく!自分、A大学空手部出身、木村たくやと申します。今から、〇△◇□✖※やります!」

 

部活の最下級生は、飲み会を盛り上げるために、自分の全てを捨てて盛り上げ役に徹する。一発芸。一気飲み、裸芸、ショートコント、ファイヤーショー(陰部に火をつける)。大学生活も数カ月を過ぎれば、この羞恥心など一切なくなっっていた自分が悲しかった。

 

「キャー、見えてる!!!」

「やばい、やばいって、公然わいせつ!!!おまわりさーーーん!」

 

何をしているかはご想像におまかせしたいが、自分の一発芸のおかげで、男女子構わず、狂気乱舞、非日常的な江頭2:50なみの一発芸に、みなさんテンションマックス。さらに追い打ちをかけるように一気コールで、女性陣にお酒を飲ませるため、下っ端の僕が一緒に飲むので、酒はガンガン聞いてくる。

 

一通り、場が盛り上がったところで、席替えタイム的に、みなさんが移動開始し始めたところで僕はお役御免でようやく席につくことができた。

 

「ねえねえ、木村君、そんなに無理しなくていいのよ。ここは部活じゃないんだから」

 

「押忍、あ、はい。失礼しました。つい癖が出て」

 

「うふふ、かわいい」

 

隣に座ってきたのは、あの、まなみさんだった。酔った僕でもわかるような爽やかな香水とシャンプーの香りは、僕が知らない世界の芸能人がきたような感覚だった。

 

「木村君は坂下君にこき使われて大変じゃないの?なんでそこまでして空手を続けているの。」

「自分は空手が好きですし、あの坂下さんも、一年の時にはこういう経験をされているんだろうと思って、これが当たり前なのかと」

「そんなことないよ、ちょっと特殊だよ。でも、そういう真面目な男の子って珍しいよね。私、そういう人と会ったの初めてかも」

「そうですか?僕は男子校出身だったし、こんな感じの奴らばかりでした。坂下さんこそ、空手家としては変わっているとは思いますが」

「かわいい!木村君ってさ、一浪でしょ?私は現役で今、二年生だから同い年じゃん。これからたくやって呼んでいい?」

「押忍、じゃないくて、はい、呼び安ければ、なんとでもよんでください」

 

しこたま一気飲みをした後だったから、記憶が定かでないが、そんな話をしたような気がする。

 

「おーい、木村、ちょっとこっちこいよ!」 

 

「押忍」

 

「すいません、坂下さんに呼ばれたので、あっちに行ってきます。」

「あの人どこまで無神経なんだろ。でも、しょうがないわ。これもたくやの仕事だもんね。また後でこっちきてね」

 

もたもたしていると、また理不尽なことを言われそうなので、すぐに坂下さんの座る上座に移動してビールを注ぎに行くと、

 

「お前、まなみに手をだすなよ。わかってるな。俺が狙っているんだから」

「押忍、もちろんです。」

「お前はさ、黙っているとかっこいい男だけど、女経験がないから、お前じゃまなみの相手はできないよ。だから無理せず、俺に任せろ。」

 

女経験がない、、、確かにそれは事実だったが、こっちがまなみさんに近寄ったわけじゃないし、そこまで言わなくたっていいだろと、少しムッとしたが、さすがに先輩は先輩。この手のムッとすることは、普段の理不尽な稽古からよくある話なので慣れきっていた。

 

しかし、なぜまなみさんが、僕に近づいていたんだろうか?気がある?いや、それはない。バイトの社員の間でもひときわ美人で有名だし、客からナンパされることも日常茶飯事。それに現役モデルなんだから、僕とは無縁の世界の人。体育会の一発芸が面白かっただけだろう。まったくそんな役回りだ。しかし、今頃、ナカミ―達はどうしているのだろうか。。。。。

 

そのころ、ナカミ―、池田、鈴木さんともう一人は、今回は鈴木さんのお目当ての4人で飲んでいた。完全に2対2のグループ交際状態だった。

飲み会もだんだん盛り上がってくると、2対2で話し込むようになっていた。

 

「ねー、ナカミ―は彼氏いるの?」

「いないよ。文学部は女子ばっかりだし、うちの大学は可愛い子が多いから私なんて。」

「でも、ヨット部には男子が沢山いるからモテるでしょ?告白とかされないの?」

「ないない。でも、目の前のお二人はどうなるかわからないけどね。」

「えー、そうなの。じゃあ、俺、立候補していい?」

「池田くんお酒飲みすぎ。イエローカード。明日も練習あるんでしょ。」

「大丈夫、そこまで飲んでないよ。でもさ、まじで俺、ナカミ―のこと好きだから付き合って欲しいな」

「ありがとう!でも、お酒飲んでないときにお願いね」

 

バイト飲み会は、終電間際に一次会は終わり、僕はギリギリ終電に間に合い帰宅した。今日のまなみさんとの会話を思い出しつつ、ナカミ―達がどうなったのか気がかりで仕方なかったが、飲み疲れもあり帰宅早々、バタンキューでベッドに寝てしまった。くっそー、池田の奴、やっぱり手を打っているのだろうか。。。

 

「はー、今日はどうして、木村君きてくれなかったんだろ。。。。空手部の上下関係が厳しいのは学内でも有名だけど、池田君は誘われてなかったみたいだし。それとも、池田君は断って、木村君は断れる話を断らずに飲みにいったのかな。。。木村君、やぱり、私のことなんとも思ってないのかな。。。それとも、かわいい人が多いバイト先で、もしかして、、、、」

 

残暑も和らぎ、すがすがしい10月中旬のこの時期。二人のすれ違いと不安が入り混じる曇天の秋となった。